翻訳ミステリーマストリード補遺(ミステリー塾10/100) ダフネ・デュ=モーリア『レベッカ』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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デュ=モーリアの名作を楽しんでいただけてようでひと安心です。ゴシック・ロマンスについての理解は、私が言葉を費やすよりもフレデリック・S・フランクが抽出した同ジャンルの主要素を、風間賢二が要約した定義を『ホラー小説大全』(角川ホラー文庫)から引用したほうがいいでしょう。すなわち、

1.閉じられた空間・監禁状態の恐怖。

2.迫害される乙女・性的な危機。

3.超自然的現象の現実への侵犯。

4.合理的な判断と既成の道徳観の宙吊り。

5.アイデンティティの探索と危機。

です(詳細な分析は風間書をご参照ください)。

ただし、これらは18世紀的なゴシック・ロマンスでは一般的な要素でしたが、そのままでは到底現代に存在しえなかった。デュ=モーリアはこれらの因子を取捨選択し、ある物はそのまま採用、他のものは捨象、もしくは裏切ることで現代版のゴシック・ロマンスを作り出したのだと私は考えています。それゆえに〈ミステリー〉としても精読に耐えうる作品となった。ネタばらしになるために踏み込んで書くことは避けますが、本書を既読の方にはきっと頷いていただけるものと思います。また、それゆえに『レベッカ』は何度でも再読することができる名作なのです。

ちなみにデュ=モーリアは短篇作家としても素晴らしい書き手です。本文中に紹介された『いま見てはいけない』の他、早川書房異色作家短篇集に収録された『破局』などの作品を読むことができます。興味のある方はぜひそちらもお試し下さい。

さて、次は『ポアロのクリスマス』ですね。1月遅れになってしまいますが、楽しみにしております。そして良いお年を。

『レベッカ』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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