翻訳ミステリーマストリード補遺 レイモンド・チャンドラー『さらば愛しき女よ』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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キャラクターは作者とともに成長するものです。フィリップ・マーロウの場合は特にそれが顕著で、長篇第一作の『大いなる眠り』と代表作とされる『長いお別れ』のころでは印象がまったく違う。それはそのはずで、前者は1939年、後者は1953年の作品です。しかも『長いお別れ』を発表する前のチャンドラーは、ハリウッドに行って映画業界でさんざんな目に遭ってきていた。人生経験を積んでいるわけです。そうした作者の心境の変化が、マーロウという主人公像にも反映されないわけはないでしょう。シリーズを通読すれば、その変遷も楽しめるはずです。

『さらば愛しき女よ』は長篇第二作ですのでまだまだ元気なマーロウです。動きもあり、犯罪小説としてのおもしろさも抜群だと思うのですが、いかがでしょうか。

翻訳の話をすると、私は『湖中の女』や『高い窓』の田中小実昌訳も好きでした。ハヤカワ・ミステリから文庫に入った際に清水訳に統一されてしまったのですが、機会があればこちらも試してみていただければ、と思います。前期マーロウの元気の良さには、田中訳もいい気がするんだよな。

『さらば愛しき女よ』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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