翻訳ミステリーマストリード補遺(17/100) ジム・トンプスン『おれの中の殺し屋』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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「最後の一撃」というミステリー用語があります。最後の一行でそれまで浮遊していた部品が収まるところに収まり、小説全体の見え方まで変わってしまうという。

『おれの中の殺し屋』の最後の一行はどんでん返しを企図したものではないでしょうが、それでも小説全体に意味を与えるという点においては極めて重要な働きをしています。その一行があるからこそこの小説は普遍性を持ち、重い哀しみを読者の心に残すのですから。だからこそすべてのミステリーファンに、暴力場面の残虐さを我慢してでも読んでもらいたい、と私は考えます。

本書を読んで気に入った人は『ポップ1280』と『ゲッタウェイ』を読むべきなのですが、残念ながら後者は絶版で手に入りません。そこでお薦めしたいのは、『残酷な夜』です。『おれの中の殺し屋』以上に表現の冒険があり、特に終盤の展開は眩暈がするほどに前衛的です。小説を書いたことがある人ならば一度はやってみたいと憧れるような、文章による世界変容が行われる作品なのですから。また、あらかじめ壊れてしまった者の悲劇を描いた作品としては同書ほどに胸を打つものも他にないでしょう。

『おれの中の殺し屋』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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