翻訳ミステリーマストリード補遺(34/100) ハリイ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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ハリイ・ケメルマンの登場はアメリカ・ミステリー界に大きな驚きを与えたものと思います。「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」に掲載された一連のニッキイ・ウェルト教授ものの短篇はもちろん傑作揃いで里程標的価値も持つものです。ですが作家としての真価は、『金曜日ラビは寝坊した』から始まるラビ・スモール・シリーズによって発揮されたと私は考えます。アメリカにはユダヤ教(ユダヤ教の教えを守って生きている人たち)という集団がいるという事実と、その内部には他にないルールが適用されるのだということを第一作『金曜日ラビは寝坊した』は改めて読者につきつけました。これ以前にもマイノリティである個人を主人公にした作品は多数存在します。しかし、ラビ・スモールに率いられた共同体そのものを描くことを主題にした小説は、少なくともミステリーの分野ではありませんでした。その源流にはエラリー・クイーン『ガラスの村』や一連のライツヴィルものなどがあるでしょうし、この後には小共同体内で起きた犯罪を描くタイプのミステリー、いわゆるコージーものなども影響を受けているはずです。ラビ・スモール・シリーズが翻訳としては完結しなかったこと、今ではほぼ品切状態で手に入らないことが残念でなりません。

『九マイルは遠すぎる』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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