翻訳ミステリーマストリード補遺(38/100) フレデリック・フォーサイス『ジャッカルの日』

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翻訳ミステリー大賞シンジケートの人気企画「必読!ミステリー塾」が最終コーナーを回ったのを記念して、勧進元である杉江松恋の「ひとこと」をこちらにも再掲する。興味を持っていただけたら、ぜひ「必読!ミステリー塾」の畠山志津佳・加藤篁両氏の読解もお試しあれ。

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『ジャッカルの日』の素晴らしさを語るときに忘れてはいけないのは、ミステリーならではのエッセンス、知的好奇心をくすぐる仕掛けが随所にあることだと思います。ジャッカルはプロの暗殺者ですが、物語の中で暴力を行使する場面は最低限に留められています。彼は知力によって標的に接近しようとするのです。そのアイデア量の豊富さも魅力の一つでしょう。だからこそ悪漢対探偵の古典的な図式だけで引っ張るスリラーではなく情報小説の側面も備えた新しい時代のミステリーとして、作品は世に受け入れられたのでした。1975年に『ミステリイ・カクテル』(講談社文庫)を発表した渡辺剣次は、古典的名作の価値は認めつつ、読まれるべき作品のリストは常に更新されなければならないと考えて、試案としてその時点での現代版ミステリーベストテンを作成しました。その中には当然『ジャッカルの日』が含まれていたのです。この作品の新しさ、ジャンルを豊穣にする可能性を評価していたからでしょう。読むたびに驚きのある作品ですし、後続への影響も計り知れないものがあります。現在でいえばジェフリー・ディーヴァーのような作家たちの中にもフォーサイスの遺伝子は受け継がれているのではないでしょうか。

『ジャッカルの日』を畠山・加藤両氏はこう読んだ。

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