某月某日
今抱えている仕事。インタビューの構成×3(イレギュラー2、文庫解説1)、レギュラー原稿×4、イレギュラー原稿×3(文庫解説、調整待ち、書評)、ProjectTY書き下ろし。下読み×2。
やらなければならないこと。連載原稿の準備×1。取材の準備×1
昨日は浅草木馬亭定席2月公演6日目。
ここのところ立て込んでいて木馬亭の定席になかなか足を運べずにいたのだが、本日は日本浪曲協会80周年記念公演であり、「木村派の連続が読みたい!」でお世話になっている木村勝千代さんが初めて定席でトリを取る日なのだから仕方ない。ここで行かなければ義理も人情もへったくれもないというものである。僭越ながら祝い花を出した。当日お越しの方はご覧になったと思うが、お花を出したのはそういう理由である。
そしてこれが大当たり。今回の公演は日本浪曲協会初代会長の木村友衛、七代会長の木村若衛を称したもので、多くの演目・演者がそれにゆかりあるものになっていた。
唐人お吉 東家千春・馬越ノリ子
塩原多助一代記命の振袖 港家小ゆき・沢村道世
太閤記藤吉郎の花嫁 澤雪絵・佐藤貴美江
寛永三馬術愛宕山の春駒 花渡家ちとせ・沢村豊子
仲入り
大岡政談徳川天一坊閉門破り 東家孝太郎・沢村豊子
蘇生奇談 田辺凌鶴
神田祭吉五郎恩返し 港家小柳丸・佐藤貴美江
天保六花撰河内山宗俊 木村勝千代・沢村豊子
こうして見ると、主任の勝千代さんを別にすれば本日のMVPは至宝・沢村豊子である。女の関西節、男の関東節、女の関西節と調子のまったく違う三演者を相手に獅子奮迅、さすがというしかない。トリの「河内山宗俊」は本当に素晴らしく、全篇がほぼ節、松平出羽守に娘を返してもらえない上州屋お内儀の苦悩から始まってアリア、アリア、アリアの連続で、もう筋はどうでもいいからずっと歌ってください、と願うほどであった。これは素晴らしいなあ。「慶安太平記」に続き、ぜひ「天保六花撰」も連続読みでやってもらいたい。前段で11歳で木馬亭デビューをしてから20代でいったんお休みし、その後お稽古に通っていた沢村豊子師の勧めで復帰を果たしたことを語っておられたが、詳細が気になる方はぜひ『浪曲は蘇る』でどうぞ。
このほかの演目としては「塩原多助一代記」が重友・友衛・若衛と語り継がれた木村派のお家芸。小ゆきさんによれば、港家小柳から継承した型は関東節・関西節・中京節の三つを一席に詰め込んだ贅沢なお外題なのだとか。注意して聴く。「太閤記藤吉郎の花嫁」は意外な由来。これは澤雪絵さんの師匠・澤孝子さんのマネージャーを務めた三笠節子さんが、初代木村重松の一門で浪曲師として活動していたことから演じることを許されたお外題なのだそうだ。木村重松門下で木村八重子を名乗り、初音会を率いていた大谷ハルの養子に入った後はプレイングマネージャーといて澤孝子一座の世話をしていた人だ。これは言われないとわからない由来である。
「愛宕山の春駒」は玉川の「愛宕山誉れの梅花」とほぼ同型だが、徳川家光の内面描写など細部が異なる。これは100歳まで木馬亭に上がっていた故・木村若友師からちとせさんが貰ったもので、沢村豊子師の名演奏に乗って気持ちよさそうに演じていた。おもしろいところでは神田祭吉五郎の恩返しを演じた港家小柳丸さんで、これは演目ではなく人脈つながり。港家の系譜には華柳丸がいる。玉川福太郎が「青龍刀権次」を参考にしたことでも有名だが、この人の妻が勝千代さんの師匠である木村松太郎の妹・すえさんだった。華柳丸は三代目小柳丸門下、当代は五代目で幼いころに華柳丸と同門の四代目港家小柳に教えを受けていたこともあるという。このへんの親戚みたいな関係がおもしろい。
終演後は目黒・弘南堂書店に寄って帰る。翌日の定席にもある使命があって顔を出さなければならない。