書評の・ようなもの バトル・ロワイアルは負けなかった、勝ったのだ。

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雑誌『映画秘宝』が2022年3月号をもって休刊すると聞いた。同誌には一度だけ寄稿したことがある。2011年1月号の『バトル・ロワイアル』特集号だ。記憶が正しければ、田野辺尚人氏からの依頼だったと思われる。映画『バトル・ロワイアル2』のノヴェライゼーションを担当したことは私にとってライター業の大きな節目になった。それもあって、『バトル・ロワイアル』という作品への恩返しのつもりで書いた文章だ。以下、校閲前の文章につき誤記などはどうかご寛恕いただきたい。

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一九九八年に第五回日本ホラー小説大賞への応募作として執筆された『バトル・ロワイアル』(以下『BR』は、表現があまりに反社会的であるという理由から選考委員によって受賞を拒まれた。翌年太田出版から同作が刊行され、メガヒット作となったことは今更繰りかえすまでもないだろう。

『BR』が主に若年層を中心とした読者から支持を集めた理由は、大きく分けて二つある。一つは、ルールに則ったゲームとして殺人を描くドライな考えが、形骸化した世間の倫理観を嘲笑するものに見えたこと、もう一つは、右に書いたように「抵抗の文学」としてこれが受け止められたことである。この小説では、人々の生命を守るべき役割の「政府(1)」がもっとも守られなければならない存在である「子供(2)」に「互いに殺しあうゲーム(3)」への参加を強制するという、冗談のように残酷な状況が描かれる。政府に人々を管理する暴力装置としての本質があることを、端的な状況設定で露わにしたわけである。

もともとミステリー、ホラーのジャンルの中には、「閉鎖空間に閉じこめられた人々のサバイバル(4)」を描いたものの系譜が存在した。先行する4に1~3の要素を加えたオリジナルの発明者は、高見ではなく、彼が影響を受けたスティーヴン・キングらの先行作家だが、③の「ゲーム」要素をつきつめ、殺人劇を一級のエンターテインメントへと昇華させたという点で、高見が成し遂げた功績は大きい。

いかに『BR』の影響が大きかったかということは、商業媒体で発表されたものよりもむしろ同人作品を見ればよく判る。2ちゃんねるを初めとする掲示板に、無数の「もし○○のキャラクターがBRゲームに参加したら」というスレッドが乱立したことは今も記憶に新しい(ニコニコ動画に投稿されている、ぱげらった氏の「東方バトルロワイアル」はそうした二次創作の最高傑作だと私は思う)。『BR』刊行と同時期、もしくは直後に貴志祐介、黒武洋をはじめとした複数の作家が類似した設定の作品を発表しているが(別掲リスト参照)、前述したようにサバイバルゲーム設定の小説は前例があり、『BR』と直接影響を受けたとはいえないものも多い。明確に影響関係を指摘できるのは山田悠介で、彼の出現以降、極限状態に置かれた人々の脱出劇を描いたゲーム小説が頻繁に発表されるようになった。しかしそうしたフォロワー作品は、ほとんどが前出要素のうち1を欠いたものだ(直接的な影響関係は、『BR』よりもむしろ映画『SAW』シリーズの方が強い。抵抗の文学という意味では、深町秋生の一連の作品がもっとも『BR』の正統に近い後継である)。究極の暴力装置である「政府」とは何か。そうした問いを捨てたゲーム小説は諷刺小説ではなくなっているが、殺人という行為の容易さ、人命の価値のおそるべき軽さを逆説的に示す、不気味なホラーとしての地位は保たれている。そうした無意味さに引かれた作品の系譜は、現在も脈々と受け継がれているのだ。

しかし『BR』のヒットによってもたらされた最大の変化は、飴村行が『粘膜人間』(角川ホラー文庫)で第十五回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞したことだ。この悪趣味極まりない小説を、選考委員たちは認めてしまったのである。そのうちの一人、荒俣宏は同作を含めた応募作全般の残酷さを肯定し、価値観の転換が必要な時期にきていることをはっきり認めた。一九九九年に高見広春が味わった無念は、二〇〇九年の飴村行の受賞によって晴らされた。高見広春が十年がかりで勝利を収めたのだと、私は考えている。

1999年

『バトルロワイアル』高見広春(大田出版他)

『クリムゾンの迷宮』貴志祐介(角川ホラー文庫)

2001年

『そして粛清の扉が』黒武洋(現・新潮文庫)

『リアル鬼ごっこ』山田悠介(現・幻冬舎文庫)

2003年

『バトルロワイアルⅡ 鎮魂歌』高見広春・杉江松恋(太田出版)

『親指さがし』山田悠介(幻冬舎文庫)

2004年

『地獄のババぬき』上甲宣之(現・宝島社文庫)

『極限推理コロシアム』矢野龍王(現・講談社文庫)

『パズル』山田悠介(現・角川文庫)

2005年

『時限絶命マンション』矢野龍王(講談社ノベルス)

2006年

『ヒステリック・サバイバー』深町秋生(現・宝島社文庫)

『殺人ピエロの孤島同窓会』水田美意子(現・宝島社文庫)

『箱の中の天国と地獄』矢野龍王(講談社ノベルス)

『特別法第001条DUST』山田悠介(幻冬舎文庫)

2007年

『THE QUIZ』椙本孝思(現・アルファポリス文庫)

『扉の外』土橋真二郎(電撃文庫)

『インシテミル』米澤穂信(現・文春文庫)

2008年

『ファイナル・ゲーム』黒武洋(角川書店)

『出口なし』藤ダリオ(角川書店)

2009年

『王様ゲーム』金沢伸明(双葉社)

『ラプンツェルの翼』土橋真二郎(電撃文庫)

『嘘神』三田村志郎(角川ホラー文庫)

2010年

『王様ゲーム 終極』金沢伸明(双葉社)

『脱出迷路』上甲宣之(幻冬舎)

『殺戮ゲームの館』土橋真二郎(メディアワークス文庫)

『生贄のジレンマ』土橋真二郎(メディアワークス文庫)

https://www.nicovideo.jp/watch/sm3924623

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