某月某日
今抱えている仕事。レギュラー原稿×6。イレギュラー原稿×4(エッセイ、書評、文庫解説×2)、ProjectTY書き下ろし。
やらなければならないこと。主催する会の準備×1。
昨日は木馬亭にて天中軒雲月一門会であった。当然伺うつもりだったのだが、先週末に雲月師より会場で『浪曲は蘇る』販売をしてはどうか、という嬉しいご提案をいただき、編集Y元氏と一緒に参上した。会のお客様はいつもの木馬亭常連ともまた少し違った顔ぶれで、途中で雲月師が「今日の記念にどうぞ」と盛大に宣伝をしてくださったこともあって飛ぶように本が売れたのであった。ご自分の会であったのに私にまでお気遣いいただき、誠にありがたいことである。
会の演目は以下の通り。
伊東の恋の物語 天中軒すみれ・沢村豊子
最期の講釈 天中軒景友・沢村美舟
ああ横綱玉の海 天中軒月子・馬越ノリ子
徳川家康少年時代 天中軒雲月・沢村豊子
以上が第一部で、第二部は歌謡ショーとなった。
「伊東の恋の物語」は大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にも登場しているであろう伊東祐親ゆかりの地である伊東を舞台にした、四代目天中軒雲月の新作浪曲。節はすでに申し分ない領域まで高めているすみれさんであり、ここに人物の演じ分けにもつながる啖呵の技量が加わればさらに聴きごたえある浪曲になるだろうと感じた。「最期の講釈」は吉村明「島抜け」にも描かれている天保年間の講釈師・瑞龍の物語で、作品の成り立ちは未詳。瑞龍は難波戦記を読んで舌禍により種子島に流され、後に小舟でそこから脱する。序盤と終盤に講釈の場面があり、中盤には島抜けの段があって、と山場沢山のネタなので、島抜けの場面はもっと凝ってもいいのではないか。道中付けとまではいかないが、ここに何かおもしろい節があるとぐっとそのあとの悲劇が盛り上がる気がする。とはいえ、年明けをして精悍な印象が強まっている景友さんらしく、聴かせる一席になっていた。「ああ横綱玉の海」は夭折した第51代の一代記。豊田佐吉伝もそうだが、月子さんは親子の情愛を描いた実録ものを能く聴かせる。これも横綱昇進を決めた玉乃島が初代の親方に玉の海の名を貰いに行く場面がよかった。
雲月師は何を持ってくるかと思いきや「徳川家康少年時代」であった。岡崎以来の譜代家臣に支えられて辛い青年時代を乗り切った家康の姿を天中軒一門に重ねられたか。至宝・沢村豊子の三味線もよく、非の打ちどころのない舞台であった。
第二部の歌謡ショーは思いがけない楽屋裏の話などもあって大いに盛り上がった。また来年も三月に一門会をやられるとのことで期待したい。また、来年一月にはすみれさんの年明けも行われる。十一月の東家三可子さん、一月のすみれさんとめでたい会が続く。今から楽しみである。
本日の原稿ノルマはレギュラー・イレギュラー合わせて最低三本。できれば四本は書きたいが無理かもしれぬ。三連休に家を空けたつけがまわってきたが、新潟に行って、浪曲も聴いて、と元気になることばかりしてきたからなんとか乗り切れるのではないかと思う。いや、乗り切れ。