某月某日
今抱えている仕事。レギュラー原稿×3。イレギュラー原稿×4(エッセイ、書評、文庫解説×2)、ProjectTY書き下ろし。
やらなければならないこと。主催する会の準備×1。
本の音を出たところで迷った。もう一軒寄る時間はあるが、どちらにするか。中央区に戻ってブックス・オーレ。新潟と白山の間にある店で、どちらの駅から離れていて、しかも18時に閉まってしまう。もう一軒は上越線の内野駅にある古本詩人ゆよん堂だ。こちらは駅から近いのと20時まで開いているので、確実に中には入れる。とりあえず寺尾駅まで戻って上りと下りのどちらに乗るか決めよう、と思って歩き出したところ、前にいた二人連れが突如駅を目指して走り始めた。もしかすると発車時刻が迫っているのだろうか。とりあえず後を追って早歩きで急ぎ始める。その甲斐あってか、上りの便に乗ることができた。よし、内野・古本詩人ゆよん堂だ。
一つ前の新潟大学駅からこの内野駅まで、線路の北側には広大な国立大学の敷地が広がっている。でかいぞ、新潟大学。駅を北口に出て、自転車置き場を兼ねている線路沿いの道を西へ進む。南北の道とぶつかって踏切があるが、その突き当たりの建物に目指す店は入っていた。看板が出ている。やっているのだ。よかった。
中に入ると、帳場の向こうにいる眼鏡の男性が品よく迎えてくれた。手前にテーブルが一つ。左右両側の壁に本棚が置かれている。テーブルの上に置かれたメニューを見ると、コーヒーも出してくれるらしい。お願いすると「今、ブレンドしかないんですが」と言って奥に向かった。その背中を見送りながら、忙しく棚を見始める。全般的に強いのは文学系で、古本詩人の名にふさわしく詩集も多い。左側の棚にはLPレコードやCD、雑貨などもあり、そこに交じって新しい詩集が置かれていた。右側の棚は奥の壁際までやはり文学書が続くが、地理の本などところどころアクセント的に違ったジャンルが混じっていて、楽しい。
ざっと見たところで入ったときから気になっていた帳場前の棚に。学習漫画が集められている一画があって、そこに『野球のひみつ』(学研まんが)があったのが最初から気になっていたのだ。漫画家は西雄介なのだが、この本はなぜかCX系で放映されていたアニメ『一発貫太くん』のキャラクターが使用されているのである。本のどこを見てもタツノコプロのクレジットはない。海賊版というわけでもないだろうし、どういう事情なのだろうか。
もう一冊『王貞治』(学研絵ものがたり)も確保。王貞治つながりだ。当時はホームラン王といえば王貞治である。この本も絶対に要る。なぜかといえば、辻真先原作だからだ。辻は学研絵ものがたりを何冊か手がけている。そのうちの一冊がこれである。もしかすると家にあるかもしれないが、ないと困るので買う。表紙も綺麗だし。
これに加えて学研のひみつシリーズで『電気のひみつ』と『びっくり世界一自然のひみつ』も買う。トキワ荘漫画家の一人である横田とくおの作品だからだ。横田とくおは見たときに買っておくのが家訓である。
均一棚も念のために覗いておく。意外なものが見つかった。さっきものせ書店で買った藤原審爾『泥だらけの純情』だ。同じ春陽文庫だが表紙が違う。こっちが旧版らしい。旧版があり、新版の表紙になり、山口百恵・三浦友和主演で映画化されて帯が付け替えられたという順序なのか。これも貴重なので買っておかなければならない。
コーヒーを淹れて戻ってきた店主に値段を聞くと、なんと学習漫画は値付けをしていないという。急いで値付けをします、と何やら調べ始めた店主の背中を見ながら、胸の中でそろばんを弾く。これぐらいでいかがですか、と言われた金額はちょうど千円上だったので正直にそれを言うと、コーヒーも注文してくださいましたし、いいでしょう、と負けてくれた。おお、コーヒーも飲むものだ。ちょうど喉が渇いていてほしかったのだけど。
コーヒーをいただきながらいろいろ新潟市の古本屋事情を伺う。ゆよん堂も開店して約三年の新しい店だという。新潟のニューウェーブ古本屋の未来が明るいことを祈りつつ、この日はおしまい。