杉江松恋不善閑居 旧聞・昭和町「大吉堂」と阿倍野「古書ますく堂」

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某月某日

今抱えている仕事。レギュラー原稿×3。イレギュラー原稿×4(エッセイ、書評、評論、文庫解説×1)、ProjectTY書き下ろし。

やらなければならないこと。主催する会の準備×1。

昨日は午後から奮起して、レギュラー原稿とイレギュラーのうち長めの文庫解説をそれぞれ1本ずつ片付けた。レギュラー原稿の〆切がきたのと、イレギュラー原稿で忘れていた年鑑用の評論仕事を追加したので、総数は変わらず。しかし仕事をした実感はある。本日は日本推理作家協会の理事会があるため、そんなに原稿は書けないと思う。2本ぐらいはなんとかしたいが。

1月に大阪に行ったときのことがまだだったので、そんなに長くならないように時間が空いたときに書き留めておきたい。毎年1月4日は浪曲親友協会の大会なので、それに合わせて当日の朝に向かった。開場までの時間を利用し、まず向かったのが地下鉄阿倍野筋線の昭和町駅から西に数分歩いたところにある大吉堂である。

「コドモ心のヒミツキチ」をキャッチフレーズとし、ジュヴナイルやライトノヴェル、ヤングアダルトなどの書籍を中心とした品揃えで勝負しているお店だ。以前は別の場所にあったのだが、最近になって現在の位置に移動してきたという。店主に挨拶してそのことを聞くと、ここから歩いてすぐの場所でした、と答えが返ってきた。おお、そうだったか。

店内は以前よりも広く、縦長の長方形で歩きやすい感じになっている。奥に机が置かれているのは、こどもたちが来訪したときに使ってもらうためだ。こどもの本以外も充実しており、笑福亭松枝『ためいき坂、くちぶえ坂』(浪速社)を買う。松鶴門下の修業時代を書いた本だ。もう一冊、ミステリー棚にあった有栖川有栖『迷宮逍遥』(角川文庫)を買ったのは、この翌日に有栖川さんとお会いして対談する予定があったためである。自宅にはあるのだが、旅先で見つけたというのも何かの縁だろう。

勘定をしてもらって外に出る。ここから阿倍野筋をぐんぐん北上していき、浪曲大会が行われる阿倍野の公会堂手前で左に折れて西に行ったところにあるのが、古書ますく堂だ。かつては池袋と要町駅の間くらいの場所にあったが、隣の幼稚園が敷地拡充するとかで立ち退き、大阪に移ってきた。

以前の店もスナックだったり、何かのお店だったりした建物を居抜きで使って古本屋としてはけっこう変わった概観だったのだが、今回の店舗は完全に民家である。軒先に出された看板がなかったら古本屋には絶対見えない、というのはかつて熱海に存在した古本屋・遊我堂と同じ。

「そうなんですよ。だから戸を開けておかないとお客さんには絶対わからないですね」

と語るのは店主。面識があるので、入ってまずご挨拶をした。上がり框から中に入る店内は完全に民家の作りだ。古本屋に来たというよりも、古書蒐集癖のある知人の家に来たような感覚である。店内はL字型になっていて、見た目よりも奥行きがある。Lの横棒にあたる場所で石森章太郎『章説トキワ荘の春』(中央公論社)を発見する。中公文庫に入っているが、今夜読むのに買うことにする。

お勘定をして外へ。これから浪曲大会である。

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