某月某日
今抱えている仕事。レギュラー原稿×4。イレギュラー原稿×2(エッセイ、評論)、ProjectTY書き下ろし。
やらなければならないこと。主催する会の準備×1。
早朝から出かけて宇都宮線に乗る。2時間かけて栃木県の小山駅まで行き、そこで水戸線に乗り換える。朝食は12・13番線の「きそば」で、と思っていたが今年1月に閉店してしまっていた。ホーム上の、カウンターが露出した形の立ち食いそば屋は今や希少種だったので残念である。水戸線はコロナによって緊急事態宣言が発令される前の2020年3月に来て以来だ。あのときは下館で真岡鉄道に乗り換えて、益子に行ったのだった。思いを巡らせながら列車に揺られていく。各駅で上りのホームに多数の人影がある。見ればみな、中高生ぐらいの男女だ。宇都宮に遊びに行くのだろうか。
1時間かけて茨城県の笠間市に到着した。初笠間だ。本当は1年前から来たかったのだが、コロナのために機会を逸してしまっていた。青春18きっぷを使っての初挑戦である。やきものを見にいく妻とは別れてここから単独行動だ。絶対に公共交通の足がない場所に行くので、駅前でタクシーを呼んでもらう。乗り込んで運転手に「仏ノ山峠に行ってください」と告げた。笠間から宇都宮まで、宇都宮街道といって旧い道があった。現在の県道1号の旧道が一部これである。仏ノ山峠で宇都宮街道は栃木県に入る。その手前に、目指す場所があるのだ。
15分ほどで仏ノ山峠である。タクシーには待っていてもらい、あたりをうろうろと歩く。峠の山頂には地蔵堂があった。ここで亡くなった人の慰霊のために建立されたものか。そこから笠間市側に戻って、旧道のほうへ少し下っていく。三、四軒の家が建つ集落がある。そこを過ぎてさらに進むと旧道だ。閉鎖されていて、車は中に入ることができない。その奥に石碑があったのでちょっと見てみることにした。馬力碑とある。後でお聞きしたところによると、これは馬頭観音を祀ったものなのだとか。険しい山道を行くうちに息絶えてしまった馬もあっただろう。その魂を鎮めるためのものなのだ。あたりは鶯が鳴いてのどかな風情である。
集落のほうに戻る。まったく人影がないので、一軒の家を訪ねてみることにした。出てきてくださった老婦人に訊ねて、情報を得る。なるほど。丁重にお礼を言ってその場を辞した。タクシーで市街地に戻ってからのことはまたいつか。日本三大稲荷といわれる笠間稲荷の門前町として栄えた町で、かつては芸妓も多く賑わっていた。その置屋が集まっていた喜楽横町なども訪ねた。
また3時間かけて帰宅。テレビを観たら「ポツンと一軒家」でディレクターが民家を訪ねて情報を聞き回っていた。ちょっと前の自分も同じことをしていた、と可笑しくなる。
今月も更新されました。「ミステリちゃん」2022年3月号・その1です。