某月某日
今抱えている仕事。レギュラー原稿×4。イレギュラー原稿×3(エッセイ、評論、解説)、ProjectTY書き下ろし。
やらなければならないこと。主催する会の準備×1。
午前中にどうしてもやらなければならないことを片付け、そそくさと外出。今やっている書き下ろし用の取材である。目指すのは埼玉県深谷市。これでだいたい目鼻がつくはずなのだが。
取材そのものはたいして時間がかからず、タクシーを呼んで中心部に戻る。市立図書館で郷土史コーナーを確認したが、予想通りほとんどが渋沢栄一に関するものだった。そこから南西に歩くこと約十分、七ツ梅酒造の醸造工場跡をカフェや雑貨屋などの店子が入った商業施設に作り替えた場所が現れる。その中に入っているのが須方書店である。煉瓦作りのいかめしい建物だが、扉を開けると中は本の群れ。想像以上の壮観に、内心で身震いする。
中に入ると右側にまず漫画や映画、演劇のコーナー。そのまま行けば壁際の通路は日本と世界文学の棚である。珍しい初版本と文庫が身を寄せ合うようにして並んでいる。その隣が児童書や趣味の本がある通路、グラデーションを描くように左通路の郷土史や戦争関連、地誌などが並ぶ通路へと続いていく。入口を入ってすぐ左は芸術系、その前にアメリカ文化の小さな棚が置かれていたり、戦前の黒っぽい本がまとまっている場所があったりと気が抜けない構成だ。さらに中央の帳場脇にも棚があって、古い漫画や洋書なども置かれている。
文学棚で大江健三郎の対談集『世界の若者たち』(新潮社)を発見。大藪春彦との対談が載っていて、けっこうおもしろいのだ。ダブりだが安いので購入。このほか映画棚で藤田まこと『最期』(日本評論社)、奥の棚で桑原高良編著『初代コロムビア・ローズ物語』(上毛新聞社)を見つけた。後者は地方出版物なのでなかなか珍しい。
須方書店を出て駅方面に向かう、六分ほどで観光東武という看板が見えてくる。ん、旅行会社か。しかし、その下に古本・古書というのぼりが翻っている。古本屋なのだ。雑貨と古書の小さなお店りすとのしゅである。入口を入ると、明らかに以前は業務カウンターだったと思われる長机がある。それと面した壁際には旅行雑誌、カウンターの奥には未整理の荷物がある。奥のほうで声がするので入っていくと、カウンターを抜けて左側に向かったところに店舗部分が続いていた。どうやらそっちが主であるらしい。
お店は一の字の右端にちょっとでっぱりがある、つまりテトリスのあのパーツのような形をしている。私が入ってきたのはでっぱり側だ。主部分にはもっと棚があって、入口すぐの窓際にオカルトからミステリー、サブカルチャーなどが細かく分かれた棚がある。サーカス関連書が特に目を惹く。その右隣の壁にはZINEを多く取りそろえた棚、さらに中央のカウンター際に雑誌が多めの棚などと続いていく。これらの中央に昔は旅行パンフレットが刺さっていたのだと思われる円形の柱があって、そこにもグラフ誌がある。周囲にも低めの棚。お話を伺うと、以前から観光東武の一部に間借りする形で営業をしていたのだが、昨年にいよいよ旅行会社が撤退し、一階の全フロアを店舗とする形で始動したのだとか。まだまだ新米だし本も少なくてお恥ずかしいです、と店主は謙遜されるが、いやいやもうすでに個性が出ていておもしろい棚になっている。ZINEのコーナーから五十部上梓会の『口裂け女とポタリング』『一つ目小僧とポタリング アイアン迷伝』をいただく。深谷周辺を、伝承の跡を巡りながら自転車で周っている人が出している本なのだそうだ。妖怪本としてもおもしろそう。
深谷から北上して高崎まで行き、ひさしぶりにみやま書店を訊ねたが、まさかの休業であった。なんということだ。仕方ない。再び高崎線に乗って北上まで引き返す。古本屋巡りでは淋しいことになっている高崎線だが、この北本には駅前店があるのだ。冨士書房北上店である。新古書店なのかと舐めてはいけなくて、店頭の均一棚もからしっかりした品ぞろえであることがわかる。店内に入れば、それほど広くない店内が二本の中央棚で仕切られている。エリアはそれほど厳格に仕切られているわけではないが、左右に文学や硬めの人文科学書、中央に文庫や新書という並びでコミックは少なめだ。帳場の奥にさらに売り場があって、アダルトコーナーなのだが、手前にコミックス稀覯書の棚がある。均一棚から『坂東英二の球際人生 ホンネで勝負 プロ野球どんとこい』(日之出出版)を購入。
外に出て三度高崎線に。池袋コミュニティカレッジで講師を勤めて帰宅した。慌ただしい一日であった。