某月某日
今抱えている仕事。レギュラー原稿×6。イレギュラー原稿×2(エッセイ、解説×1)。
ProjectMTの準備。
やらなければならないこと。主催する会の準備×1。
本当は甲府に行く前に終わらせたかったインタビュー構成をえいやっとやってしまい、返す刀で短めの書評原稿を書く。夜は朝日カルチャーセンターで講師のお仕事。
甲府のことを書く。前日がイベントだったので帰宅が遅く、やや寝不足で家を出た。甲府までは特急を使っても二時間くらいで着くので楽観視していたが、新宿駅で切符を買おうとして満席であることが判明する。土日だからハイカーが多いのか、甲府までは込むのだという。やむなく立って乗るが、揺れが激しくて酔ってしまう。甲府到着後しばらくは動くことができず、昼近くまでぐったりしていた。
1988年版の『全国古本屋地図』を見ると、甲府市内には駅を中心にして六件の古本屋があると書いてある。駅の北側に郷土誌に強い城北書房があり、その向かいに甲文堂書店、山梨大学近くに幸和堂書店、南側に移って秋山書店と風雪堂があって、三十分ほど歩けば明文堂書店に着く、とある。この中で残っているのは風雪堂だけだ。山梨県は無残なほどに古本屋が減ってしまい、関東圏の空白地帯に近い状況だ。
南口を出て駅前の通りをとぼとぼと歩いて進み、大きな交差点を渡ったところで西に曲がり、道を二百メートルくらい行ったところに風雪堂支店がある。支店と言っても現在はこの店舗しかないのだが、本店はどこにあったのだろうか。
閉まっている。
午前10時開店のはずなのだが、と思いつつ扉に書かれていた携帯電話の番号にかけると店主らしい男性が出た。なんと、市場に来てしまっているので店は開けられないのだという。無駄足を踏ませて申し訳なかったと丁重に詫びられては言葉もない。仕方ないのだが、これで二連続で空振りである。この先店内に入れることはあるのだろうか。
大きな道をまたとぼとぼと、今度は東に向かう。県内資本の岡島百貨店が面している城東通りが繁華街の中心で、そこから南北に延びている路地で多くの飲食店が営業している。そこには魅力的なお店がたくさんあるのだが、今は昼なのですべて閉まっている。人影もまばらで、土曜日ということでフリーマーケットが催されていたり、楽器演奏が行われていたりしたが、肝腎の人出は今一つであった。午後になれば増えてくるのだろう。この城東通りと並行してある柳小路に、目指すジェネラルストアペチッタペチットがある。雑貨店なのだが、二階が古本売り場になっているという。可愛らしい名前もおもしろく、いっぺん来てみたいと思っていたのだ。
閉まっている。
写真で見るとたしかにこの場所なのだが、下がっているはずの看板がない。お休みなのか、それとも閉店してしまったのか。わからないが、とにかくやっていないのだから仕方ない。諦めて駅に戻ることにした(後日確認したところ閉店した由)。
さあ、困った。ここまで二店連続で空振りである。なんとか三振は避けたいので、目指す店に電話をかける。留守番電話になってしまったが、折り返しで連絡が来た。やっているという。よかった、無駄足にはならないで済んだ。
駅を超えて北口に出る。ここから2キロメートルくらいなので歩ける距離ではあるが、朝からぐったりすることが続いて疲れてしまっている。おとなしくタクシーに乗った。数分で現地に到着。甲府駅の北西に湯村温泉郷がある。そこへ行く手前に、数年前から店を構えているのが古書兎の穴だ。ここだ、ここに来たかったのだ。日月が定休なので、土曜日に前泊してやって来たのである。
開いている。
電話で確認したのだから当たり前なのだが、営業しているのを確認した途端にそれまでの疲れが吹き飛んだ。よかった。甲府いいところ。ありがとう甲府。
中に入ると、右側が帳場になっていて、カウンターの中で女性が作業をしている。造りから見ると、もともとは別の店舗だったのを居抜きで借りたもののようだ。
入ってすぐ左が児童書エリア。山中峯太郎版のホームズがたくさんあって、しかも安い。その奥の入れないところにハヤカワ・ミステリが大量にあった。目を凝らして見たが、ほぼクリスティーやガードナーなのでわざわざ踏み込まないことにする。この児童書エリアの奥は櫛型に棚が並んでいて、手前に探偵小説やSF、その次が人文科学書や文学書、最も奥が郷土誌関係というように分かれている。これはおおざっぱなくくりで、その中にちょこちょこ違うジャンルの本が小さなエリアを作っているので見飽きない。ヨの字の横棒の先にはそれぞれ文庫棚が置かれている。
その横の棚に相対する形で縦に長い棚が置かれており、ここに芸術書や自然科学系の本、趣味の本といったものが並んでいる。オカルト系も多数。突き当りが古い日本作家の棚で、そこから右に折れると長い棚の裏側に回りこめる。古い漫画雑誌と単行本が中心のエリアで、カードなどの雑貨もある。ここにB5版型の同人誌がたくさん並んでいた。抜き出して見ると、東方二次創作のものが多数である。おお、お宝の山だ。もちろん一冊一冊確認しながら抜いていく。ダブリの可能性が高いものがけっこうあったが、万が一持っていなかった場合は大変なことになる。結構な冊数の同人誌を買うことになった。ついでに日本人作家棚で水上勉のミステリーデビュー作『霧と影』角川文庫版と、藤原審爾『愛と孤独と昼と夜』講談社版の函入りがあったので購入する。これはまあ猛烈にダブっていそうだが仕方あるまい。
店を出たら小雨が降り始めていた。近くの湯村ホテルで立ち寄り湯に入り、疲れを癒す。駅まで戻って投宿、足を伸ばして岡島百貨店内の大型書店を見に行こうと思っていたのだが、もう体力の限界が来ていて、近くの小作でほうとうや鳥のモツ煮などで一杯やって寝てしまった。もう一軒、本と喫茶かぴばらがあるのだが、別の機会にまた。