今抱えている仕事。レギュラー原稿×4。イレギュラー原稿×1(解説×1)。
やらなければならないこと。の・ようなものの準備×1。
本日は午後二時開演で木村勝千代さん独演会である。「木村派の連続読みが聴きたい! 天保六花撰特集」の二回目。パワフルな節に聞きほれたい方は神楽坂・香音里へ。
昨日のことを少し書いておく。玉川奈々福さんにご許可をいただいたので、亀戸カメリアホールに『100歳で現役! 女性曲師の波瀾万丈人生』(光文社)の物販がてら「奈々福なないろVol.5」に行ってきた。今回の目玉は「野田版研辰の討たれ」浪曲の上演で、過去にも何度か奈々福さんが舞台に掛けているそうなのだが、私は初見。歌舞伎の浪曲化ということで今回は初めて囃子方を入れての上演である。「派手になりますよ」と奈々福さん。楽しみ。開演前にロビーで物販をしていると、玉川太福さんのお弟子、わ太さんが。どうしているの、と聞くと、野次の係が必要なんで呼んでいただいたんです、と。過去には「権太栗毛」で東家孝太郎さんが馬のいななき係で呼ばれたり、いろいろ趣向はあるが、今回は野次か。どんな舞台になるのだろうか。
演目は以下のとおり。
不破和右衛門の芝居見物 奈みほ・鈴
噂話屋の婆の話 奈々福・まみ
野田版研辰の討たれ 奈々福・まみ
先月奈々福さんは義士伝のうち、赤穂城明け渡しのくだりを「赤穂のいちばん長い一日」として上演した。正伝の浪曲化という試みだが、今回は同じ赤穂義士伝でも外伝。討ち入りを社会現象として眺めていた民衆、外野の話という視点だ。「噂話屋の婆の話」は瓦版屋を主人公として、赤穂浪士は本当に討ち入りをするのか否か、という噂に揺れる人々の姿を描いた、奈々福さんオリジナル。噂を使って世論操作をしようとする柳沢吉保なども登場する。為政者によるSNSフェイク投稿なども彷彿とさせる話で、まずここで現代とつながった。
「研辰の討たれ」は卑怯未練な守山卓次が仇討の標的となって逃げ惑う喜劇で、躍動感のある舞台となった。予告のあった囃子方・望月太左衛さんに加え、笛方・竹井誠さん、それに三味線の沢村まみさんの鳴り物三人である。効果音として鳴るだけではなく、節に併せて笛も泣く。楽譜があるわけではない節と併せてメロディを織り成す笛の技術には唸らされた。囃子方の絶妙な合いの手も楽しく、これを聴くとしばらく、囃子方のない浪曲は淋しく感じられるのではないかと思わされるほど。
とにかく卓次が逃げる逃げるスラップスティックコメディなのだが、日本舞踊の動きも採り入れながら奈々福さんがよく動く。特に感心したのは駆けの芝居で、舞台奥から前方に向かって本当に駆けてきているように見える。それが結構な時間続くのである。この駆けの芝居は奈々福さんの強い武器になるのではないかと思った。他の演目に取り入れられたらおもしろいかも。とにかく躍動感がある。これができるんなら、奈々福さん。エノケンの「ちゃっきり金太」も浪曲にできませんかね。斎藤寅次郎作品なんかも浪曲化できるのでは、などとしばし夢想した。「野田版研辰の討たれ」はシネマ歌舞伎としてネット上でも視聴が可能とのことなので、記憶が新しいうちに見比べてみたい。
今回の奈々福さんは新しい形の「劇場読み」を提案したと思う。声っ節で唸らせるだけじゃなくて、総合演出一人芝居として見せる劇場向けの浪曲だ。それは現代の、多様化した娯楽を享受している観客層にも適した舞台である。また、「噂話屋の婆の話」で風評による世論形成、「研辰の討たれ」では他人の不幸を喜ぶ群衆心理の残酷さを扱って、現代に接続してみせた。浪曲は現代に通用する芸能であるという奈々福さんの主張を具現化した形だが、古いものを貴びながら現代人の感覚でそれを見せるという芸の最先端を体験した気がする。お見事な公演でした。これだから「奈々福なないろ」からは目が離せない。次は何が待っているのか。わくわくします。あの作家さんのアレがついに浪曲化されるのか、などと。