杉江松恋不善閑居 玉川祐子百寿記念・もっと玉川祐子を

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某月某日

今抱えている仕事。レギュラー原稿×5。イレギュラー原稿×2(解説×2)。

やらなければならないこと。の・ようなものの準備×1。ProjectHRG×1。

台風の中、玉川祐子百寿を祝う会、開催。物販ブース設営のため、早めに行く必要があり11時に到着した。木馬亭前ではすでに立花が到着している。『100歳で現役! 女性曲師の波瀾万丈人生』版元の光文社からもお花が。その他、ファン一同からと出演者でもある玉川太福さんから一基ずつ出ていて華やかな雰囲気である。

会場内ではみんな忙しく働いていて、今回の立案者である港家小そめさんは立ち止まる暇もないほどだ。私もブースに荷物を置いて、チラシのセッティングなどでお手伝いする。浪曲師も曲師もしろうとも一緒にチラシをセットしながらくるくる動き回る。

到着したときは雨が止んでいたのだが、次第に雨足が強くなり、開場寸前になって嵐のように降ってきた。お客さんを外に待たせるわけにいかないということで、15分早く開場する。続々と詰め掛けてくるお客さんで木馬亭はあっという間にいっぱいになった。ここまで人が入った木馬亭を見るのはいつ以来だろうか、というほどの満席ぶりだ。お席亭との約束でコロナ対策のため補助椅子を出さないことにしていたが、それも出していたらすべて埋まっていただろう。昔の木馬亭は満席になると舞台両袖にお客さんを座らせていたが、それくらいの勢いで人がやってくる。中には当日券を出さないということを知らずにやってきて、申し訳なく帰っていただいた方もいたみたいだ。本当の満員。

本日の演目は以下のとおり。

深川裸祭り 港家小そめ・玉川祐子

浪曲コント 玉川祐子・玉川太福

仲入り

トークコーナー 玉川祐子・玉川太福・港家小そめ

越の海勇蔵の生い立ち 玉川祐子・玉川みね子

ご挨拶 玉川祐子

全体として百寿をお祝いしようという気持ちに溢れたいい会だったと思う。「深川裸祭り」は玉川祐子の人生を讃える外題付けから入る演出。「祐子師匠は浪曲でいちばん大切なのはウレイ(節)だといつもおっしゃるので、哀しい場面が多いネタにしました」と小そめさん。浪曲コントは「貧乏のぼうもないような暮らしで」と祐子さんがご自分の生い立ちを語るものなのだが、ずっと取材をしてきた私には、あ、ここで脇道に逸れた、と感じられる瞬間があった。ツッコミの太福さんはそれをあえて引き戻さず、相方に喋らせておいて頃合いになったところで「師匠、それ、もうお客さんができる(暗記している)くらい話されてますから」と合いの手を入れる。この役目は太福さんにしかできないだろう。取材でも、祐子さんはこちらの振った話題ではなくても、そのとき話されたいことを自由にしゃべられている時間が圧倒的に多かった。いいのである。もうすぐ百歳になる方の時間をいただいて取材しているのだもの。百歳には自分の好きなように喋る権利がある。舞台の上でだって、好きなように話していいのだ。ほどよいところで「師匠、このあとトークコーナーがありますから」といっておしまいになった。ちなみにコントに入る前、突然祐子さんが衣装を替えるから、とおっしゃって間が空いたので、急遽太福さんが楽屋に来ていた宝井梅湯さんを引っ張り出して場をつなぐという一幕があった。

仲入り後はトークコーナーを挟み、お気に入りの「越の海」へ。この中の勇蔵出産の顛末を語るウレイが、浪曲の中でいちばん好きだと祐子さんはおっしゃったことがある。今年に入って聴くのは三度目だと思うが、明らかに研鑽して語りの精度が上がっている。百歳だけど発展途上。お客さんはいいものを聴いたと思う。

柝が鳴って幕が閉まると、普通の浪曲会ならそのままおしまいなのだが、この日は拍手が鳴りやまない。もう一度幕が開き、祐子さんのご挨拶となった。「みなさん、私の年齢を目標にして長生きしてください」とのお言葉を頂戴しておしまい。素晴らしい会だった。

予約分も含めて、本は80冊くらい売れたと思う。一緒に持っていった『浪曲は蘇る』も売れた。ありがとうございます。どんどん売って玉川祐子というお人柄、その人生を世に知らしめることが私の願いです。2019年に初めて祐子さんの人生について知ってから、とにかくそのことだけを考えて取材を続け、文章を書いてきた。玉川祐子を独占しているような気持ちがしてこの3年間ずっと嬉しかったけど、それもこの日でおしまい。私の玉川祐子ではなくて、みんなの玉川祐子になればいいと思います。みなさんの人生に玉川祐子を。もっと。

本日、このイベント。荻原浩さんに短篇小説の魅力を伺いますよ。

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