杉江松恋不善閑居 熊本・砂取校前「古本と新刊scene」

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某月某日

今抱えている仕事。レギュラー原稿×5、イレギュラー原稿×1(評論×1)。やらなければならないこと。の・ようなものの準備×1。ProjectMH×1。

(承前)

岩下小太郎さんと別れてホテルに戻り、翌日の行動予定を確認していてふと気が付いた。そういえば、市立体育館前の電停付近に、18時から開くお店があったのである。しかも明日は定休で、行けるとしたら今夜しかない。

そのことに気づいた途端、また外に出ていた。近くの桜町バスターミナルは、最近になって上階が総合商業施設化したが、もともとはもっと実用一途であったと記憶している。十代のころ、南九州をぐるっと周ったことがあり、そのときに宮崎の高千穂からここに来て、母の実家がある嬉野温泉行のバスに乗り継いだのである。もはや同じバスターミナルであるという意外には共通点がないくらい建物は変わっている。

その桜町バスターミナルからKなにがしというルートの便に乗る。帰宅する人が多く、車内には微醺を含んだ勤め人も多い。目指すのは砂取校前というバス停で、もはや真っ暗で目印も何もわからないが、道を渡ってさらに進んだ先にあるはずである。しばらく暗い道を歩いていくと、前方右のビルに、本と書かれた窓が見えてきた。あったあった本当にあった。古本と新刊sceneである。

階段を上っていく。ガラス窓のはまった扉を開いて中に入る。右側に帳場があり、眼鏡を掛けた男性が座っている。初めてですか、と聞かれたので、そうです、東京から今日来ました、と答える。落ち着いた感じの内装で、帳場のある側を除く三方の壁に棚が配置されている。カテゴリーで一段ずつ棚は分かれていて、それぞれNEWとあれば新刊、OLDなら古本である。なるほど店名通りだ。ぐるりと見て歩く。ものすごく珍しいという本はないが、どれも読んだらおもしろいというものが置かれている。こういう店は新刊の選択が命だと思うが、小出版社の刊行物や趣味的な本を中心に取り揃えられていてなかなか楽しい。店の一隅に漫画本の特集コーナーが設けられていて、店主によれば間もなくこの店内でイベントがあるのだそうだ。どれを買ってもいい感じだが、山口正介が父・瞳のことを書いた本があったので手に取って帳場に行く。今夜はこれを読みます、と言って支払いを済ませた。いい本屋である。お近くの方はぜひ。はい、今度こそ熊本一日目はおしまい。(つづく)

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