杉江松恋不善閑居 大雨の日の取材と神田「書肆ひやね」

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某月某日

午前3時というとんでもない時間い目が覚めてしまう。やはり年を取って連続して眠る体力がなくなっているかな。仕方ないので短い原稿を一本だけ書いて送った。これで一応勤務評点は+1.0になる。二度寝したら8時頃まで眠れた。

10時過ぎに家を出る。向かうのは本日より月例の浪曲公演が始まった浅草木馬亭だ。7月にアートスペース兜座で東家一太郎さんの会を開催する。そのチラシが上がってきたので届けたのである。木戸にいた猪熊ぽん太さんに、一太郎さんに渡してくださいとお願いして預けた。公演は聴けず、そのまま木馬亭を後にする。別件が入ってしまって、12時15分の開演から13時頃までしか聴けないのである。それでは仕方ない。

銀座線に乗って目指すのは赤坂見附駅だ。浪曲を聴いているほどはないけど、中途半端に時間はある。どうしよう、と考えているうちにあることを思いついた。来年出る共著の件で編集者に確認したいことがあったのだ。もし迷惑じゃなかったら出てきてもらえまいか、と連絡をしたら喫茶店に来てくれた。

確認したかったのはスケジュールで、自分では書き下ろし原稿を博麗神社秋季例大祭の同人誌作業が終わった10月以降にやってしまうつもりでいるのだが、それで構わないのか、ということが訊ねたかった。話してみるとそれではちょっと慌ただしいことがわかる。聞いてよかった。6月に1/3、8月に1/3を入れて、残りはまとめて11月までに、ということで話がついた。なるほど、そのほうがこっちもいろいろと都合がいい。礼を言って編集氏と別れたのだが、気になることを彼が言う。

神田駅前の書肆ひやねにコロナ騒動になってからずっと行けてない。何度行ってもそのたびに閉まっていたので、前のような営業はしていないのかと思い口に出すと、「普通に営業してますよ。このあいだも行きました」とのことなのである。おやおや、コロナを口実にしてサボっていたのは自分の方か、と反省し、ちょっとだけ寄ることにしたのだ。

神田駅は道と斜めに交差するので説明が面倒くさいのだが、南口から西へ向かって300メートルぐらいのところに書肆ひやねはある。連休の谷間だし、ざんざん雨は降っているし、これで閉まっていたら嫌だな、と思いながら歩いていくと、シャッターが閉まっていない。開いているではないか。わあ、開いている書肆ひやねはひさしぶりに見た。

中へ入る。入口のすぐ右が帳場になっており、その横にもバックヤードのようなスペースがある。棚は左の壁に沿っていて、片側だけの鰻の寝床型である。手前やバックヤードの横、奥、といくつか文庫棚がある。主要な棚の合間に配置されていると言っていい。特に力が入れられているのは古本に関する本や民芸関連の本で、途中にあるガラスケースには珍しいものも陳列されている。いちばん奥にはこけし関連の本がまとめて。実は古本以上にこけしに力を入れていて、二階はこけしだけの展示になっている店なのである。一冊文庫を購入し、「二階はもうこけしだけですか」「こけしだけですね」という会話をして外に出る。時間があればこけしも拝みたいところだが、ちょっと余裕がなくなってきた。赤坂見附へ。

今は知らないが、以前は赤坂見附にドコモの本社機能が入ったビルがあった。ホテルニュージャパンの跡地である。会社員時代の私は通信事業者相手の仕事をしていたので、頻繁に来た駅である。駅ビルの中には書店もなくなってしまっているし、当時の面影はあまりない。駅近くの某所にて14時から取材、1時間ほどお話を伺う。人柄が良い方で、楽しい取材になった。人を囲い込まず、来る人は拒まず、去る者も追わず、の姿勢だから気が置けない関係が築ける。見習いたいものだな、と思った。

赤坂見附から新宿に出てちょっとした用事を済ませる。雨足が強いままなので無理をせずに帰宅。作業をしているうちに思いついたことがあるのだが、別に書くことにする。(続く)

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