(承前)
そもそも今回郡上八幡までやってきたのは、天中軒雲月ふるさと公演のためである。先日一般社団法人日本浪曲協会の改選が行われ、五代目天中軒雲月さんが会長に就任した。それよりも決定は早かったのだと思うが、出身地である郡上市八幡町の総合文化センターでふるさと凱旋公演が行われることになったのだ。
もともと雲月さんと郡上市とのつながりは強く、市制発足10周年のときには当時の市長から頼まれて、新作浪曲「郡上宝暦義民伝」を作っている。宝暦年間、重税に苦しめられた郡上藩の百姓が将軍家への直訴を行ったという史実を元にした作品である。またこのときにはCDが発売され、郡上おどりなどを題材とした「郡上音頭」も収録された。
雲月さんは郡上市八幡町の生まれである。もともと歌が好きで、ご本人は歌手になりたいという希望を持っていたが、たまたま母親の伝手で名古屋にやってきた四代目天中軒雲月と面談する機会があり、中学卒業と共に入門することが決まった。単身上京し、内弟子として厳しい修行を送ったのち、二代目天中軒月子としてデビュー、四代目雲月の付き人として各地を回って、芸を見て学んだ。
浪曲の場合、落語・講談の前座から二ツ目への昇進にあたるのが年季明けである。上方落語と同じで真打昇進という段階がないので、これが一人前の浪曲師として世間に認められる最初で最後の晴れ舞台ということになる。雲月さんはこれを故郷の八幡町立八幡小学校で行った。体育館に昼夜で千人を超える客が詰めかける盛況であったという。
この八幡町立八幡小学校は現存し、郡上市立八幡小学校に名称が変わっている。町散策の終点として小学校に立ち寄った。雲月さんが会を開いた体育館は、なるほどこれなら千人のお客も入るだろうという大きさだ。Kさん、Tさん、後から到着したKさんと一緒に往時を偲んだ。浪曲ファンの聖地巡礼である。
宿に戻って宴会。深更まで飲んでいささか過ごしてしまう。夜になると気温は一気に10度代まで下がり、不覚にも鼻風邪を引いてしまった。原稿は書けなかったが、仕事の依頼メールが来ていたので返信はした。勤務評定としては1.0ということになる。