杉江松恋不善閑居 橋本席亭さようなら。横浜浪曲まつりから桜木町・天保堂苅部書店経由で奈々福・奈みほ親子会

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某月某日

あまり仕事はできずに午前中は雑用に追われ、正午近く家を出る。終わった原稿はないが、この日新しい仕事の依頼メールが来て受けたので、勤務評定としては1.0だ。

演芸家連合は毎年国立演芸場で5月に公演を行っていた。その国立演芸場が建て直しのために一時閉場してしまったので、2024年は同じ興行を横浜・桜木町のにぎわい座でやるのである。本日は日本浪曲協会の横浜浪曲まつりである。始まる前に天中軒雲月新会長が挨拶をされるというので遅れずに聞かねばならぬ。

場内はまずまずの入り。始まってみれば音の響きもよく、国立演芸場よりも浪曲向きの会場なのではないか、と思った。あっちが再開しても、別に戻らなくてもいいのではないか、という考えも頭をよぎる。新国立演芸場は業者の入札が成立せずに着工の目途が立っていないとも聞く。なんでそんなずんどこになるようなことをやっているのだか。国の施設なのに。

終演後、まっすぐ戻ろうと思ったがやむなくにぎわい座の近くにある横浜最古の古本屋・天保堂苅部書店を訪ねる。定期的に見にきているのでそんなに珍しいものが出ているわけがないことは知っているのだが、それでも足を運んでしまうのが性である。棚に大きな変化はなかった。動きの速い文庫棚はやはり様子が変わっていて、石原慎太郎の珍しい作品なども出ていたが、犯罪小説系ではないので見送る。山田風太郎特集の『東京人』がもしかすると家にないかもしれないので購入。これは資料として必要だったはずだ。

根岸線で横浜に戻り、そこから東急東横線で一気に北上。目指すのは、新宿三丁目である。道楽亭の橋本席亭が病のために先日急逝された。そのため多くの公演が中止になったのだが、玉川奈々福・奈みほの親子会は予定通り行われるという。もともと奈々福さんと橋本さんの間で、これをもって道楽亭への出演は最後とするということが決まっていたそうで、有終の美を飾る意図があったはずである。そこにこの訃報だ。演者・関係者の心中を思うと言葉もない。

この日の演目は以下の通り。

不破数右衛門の芝居見物 玉川奈みほ・玉川奈々福

松山鏡 玉川奈みほ・沢村まみ

トークコーナー

中入り

金魚夢幻 玉川奈々福・沢村まみ

奈々福さんの着物が水色の単衣だったのでもしや、と思ったがやはり「金魚夢幻」であったか。14年前、道楽亭に春野恵子との二人会で初出演したときの外題がこれだったそうで、万感の思いが籠められたであろう一席であった。奈々福オリジナルとしか言いようのない節があり、おしまいの道中付けも圧巻。昼間、国本はる乃「英国密航」の見事な道中付けも聴いていたので、ひそかに頭の中で重ね合わせていた。

終演後は奈々福さんと共に橋本席亭に献杯、別れを告げた。

橋本さんとは新宿で電撃座興行に関わっていたときに知り合った。同じ新宿で定期的に興行を興行を打つという意味では先輩だし、いろいろなことを道楽亭からは教わった。綺麗な言葉では収まらないほど、橋本さんに対しては思いがある。ただ、お疲れさまでしたと言いたい。これまで素敵な興行をたくさん、ありがとうございました。

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