思うところあって妻と銚子へ向かう。東京駅から高速バスに乗って銚子駅へ。銚子電気鉄道に乗り換える。1日乗車券が700円というのは安い。確か先日乗った岳南鉄道の1日乗車券も750円だったはずで、だいたいの相場というところなのだろうか。いろいろと営業努力をしていて、車輛そのものがイベントというような雰囲気である。この日は海鹿島駅に「日本一ちっちゃな美術館」が開くということで、人が満ち溢れていた。
犬吠駅で降りて歩き、岬を目指す。犬吠埼灯台の下に、東映のタイトル映像を撮った場所があるというのは、ゲッツ板谷さんの「スケルトン忠臣蔵」連載で知っていた。あの眺めを得るためには、岩場まで下り、目の高さで波を見なければならないのである。妻が見たいというので、上から覗き込んでみた。タイトル画面とだいぶ様子は違うので、想像で補う。
戻って観音寺のある観音駅まで向かう。最初は犬吠埼ホテルで日帰り温泉に入るつもりだったのだが、検索をしたらこの駅に松の湯という銭湯があることがわかったのだ。行ってみると、今では少なくなりつつある番台方式の銭湯だった。サウナはなくて、ジェットのある深い浴槽と電気風呂のみ。まだ早い時間だったが、地元の年配者たちがすでに数人入浴していた。
その中にずっとぶつぶつしゃべりながら体を洗っているおじさんがいた。時折声を上げて怒鳴ることもある。最初はびっくりしたが、周りの男たちがまったく気にしないので、いつものことなのだと理解した。時折ぶつぶつがメロディを帯びたようになると「お、節がついたね」などと聴いている。おじさんが自分の下半身を洗おうとして、椅子から腰を浮かしそのままの姿勢で数分間ひたすら泡を立て続けた。それを見ながら「やっぱり蹲踞の姿勢が続くようじゃねえと下半身はいけねえな」などと呑気に話している。一人は講談ファンらしく、ずっと神田伯山の話をしていた。
風呂を出て歩いて銚子駅へ向かう。また高速バスに乗って東京駅へ。とりあえず仕事になるようなことは何もしなかった。勤務評定は-1.0。だがこういう日があってもいいだろう。
銚子に古本屋はなかったが、帰路に「古本みつばち文庫」の看板を見つけた。これは倉庫だけらしい。帰り道に見たのが、パチンコ博物館の建物である。以前は東京上野にあったのだが、しばらく前にJR飯岡駅近くに移転してきた。調べたところ、残念ながら2020年に閉館してしまったらしい。写真だけ撮っておいた。
バスは途中で八日市場を通る。東から順にワンブック、クルクルという古本屋がある。関東地方ではここが最東端である。ワンブックはカードが中心でもはや古本屋とはいいがたいようなので、クルクルがその第一候補だ。もしかすると本州でも最東端かもしれないと思ったが、坂嶋竜さんに釜石市の松坂屋とればに店だろうと教えられた。なるほどそうかもしれない。
自分の知っている限りでは本州の最北端は青森市の古書思い出の歴史、最南端はチェーン店でなければ熊野市のkumano森のふくろう文庫、最西端は下関市の梓書店である。これらはみな未訪なので、機会があれば行っておかなければならない。本州だけではなくて日本の東西南北果てにある古本屋にも。その前に東京都の東西南北限界も確かめておくか。