杉江松恋不善閑居 新人賞下読みをしながら採用担当について思い出す

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某月某日

実は家に新人賞下読みの箱が来ていて、〆切が間近に迫っていたのでずっと読んでいた。成果物はまだないので、勤務評定としては-1.0である。これは仕方ない。稼ぎもゼロ。時折思いついたように銀行残高を眺めて、いかんいかんと思うのだが、別に気持ちを改めたところですぐ振り込みがあるわけでもなし。どちらかといえば一回休みの日であった。

私は人事採用をやっていたことがあるので、下読みをしているときの感覚は面接試験に近いものがある。応募書類を受け取り、成績証明書のAとBとCを数える。卒業見込証明書がと一緒にそれを履歴書にセットして、志望動機の作文と一緒にガチャックで止める。その作業をしている間に、ああ、この人は二次まで行くだろうな、とか、この一次で落ちちゃうだろうな、とかなんとなく予想がつくものである。採用担当をしている人に聞いてみたいのだが、あなたの予想ってだいたい当たりますよね。私も百発百中に近くて、面接官が誰を上げそうか、というのはだいたいわかった。

応募原稿を全部読み終わると、今度は絞り込みに移る。上げてもいい規定数は限られているので、ここでは相対評価にならざるを得ない。採用面接のときもそうで、もう一人枠を増やしてもらえませんか、と頼んですげなく断られたことは何度もあった。

後に技術系の採用担当に移り、学校推薦でやってきた学生の面接試験を受け持った。推薦だからよほどのことがない限りは採りたいのだけど、中には学業不振で困ってしまう学生もいる。とんでもない不良学生を面接に入れてしまったことがあり、大阪からやってきた人事部長が飛び出してきた。

「杉江君、ありゃあかんで。まったく勉強してないわ。学生時代に打ち込んだことは何か、と聞いたらアルバイト、やて。ええやつだけどな。営業とちゃう、技術者の面接やで」

「すみません。〇〇先生にぜひ、と頼まれておりまして。なんとかしていただかないと学校との関係が」

「かといって、無理して入社させたら困るのは本人だぞ。ここは厳しくせんと。ええか、落とすで。ケアはきっちりやっとけよ」

「わかりました。年末に〇〇先生の研究室訪問する予定入れておきます、部長の」

大昔の会話が蘇ってきた。あのときの彼は結局不採用にして、〇〇先生に渋い顔をされたのだったっけ。今彼はどうしているだろう。どこかの会社に入って、管理職ぐらいにはなっただろうか。元気でいてくれればいいのだけど。

応募原稿を見る。小説を書くことの喜びが伝わってくる。一所懸命に書いたのだろうな、とも思う。ただ、商業原稿として見れば未完成だ。着眼点にいいところはあるのだが、それに頼りすぎていて全体のバランスは悪い。

不可の評価をつけて、また次の原稿を手に取る。

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