またも一日在宅してインタビューの構成仕事、送稿。この原稿料によって6月末までに稼がなければならない額への進捗率は97.09%に達した。勤務評定は0.5。こつこつやればなんとかなるものだ。もう少し。夜は池袋コミュニティカレッジで講師のお仕事。終わって帰る。
ごくごく平凡な一日だったのでさして書くことがないが、解説を書いた文庫が出たので一つ宣伝を。ドン・ウィンズロウ/田口俊樹訳『終の市』(ハーパーBOOKS)である。『業火の市』『陽炎の市』に続く三部作の最終巻で、本作をもってウィンズロウは作家業から引退する。思えば長きにわたって犯罪小説を支えてきた作家であり、心よりお祝いを申し上げたい。
ウィンズロウの解説は何回か書いている。ハーパーコリンズジャパンでも以前に。実はそのときに、ちょっとした出来事があった。先方のエージェントが、解説に何を書くのか事前に知りたいので教えろ、と言ってきたのである。解説は本の一部だからもちろん商品を棄損するようなことは書くわけがない。いや、ときどきそういう人はいるのだが。恩田陸『図書館の海』の山形浩生解説とかすごいことになっている。ただ、解説者は作者に従属するものではなくて尊重されるべき立場なので、なんでもかんでもへいこらと頭を下げていいわけではない。編集者には悪いのだが、そこはつっぱねた。嫌なら降りる、という話である。
巻末解説の習慣は、海外では日本ほど一般的ではないため、ときどきそういうことが起きる。翻訳ミステリー大賞の候補にもなった某作などは、作者だかエージェントだか現地の出版社だかが、本文以外には余計な文章は一切入れるな、と注文をつけてきたために解説なしになった。あれはとっつきの悪さを補うためにも、日本人とは違う感覚を近づけるためにも入れたほうがよかったと思う。後の祭りであるが。
そのときはどうなったか忘れたが、たしか編集者が、私が書き終えた後で要約して送る、という形で丸く収めたのではなかったろうか。面倒をかけて済まなかった。そして、要約できるものならしてごらんと思って情報量をむちゃくちゃ詰め込んで書いたという記憶がある。大変な思いをさせて済まなかった。エージェントめ。もちろん最高の小説であった。
後日談があって、本が出てからしばらくして、ハーパーコリンズから荷物が送られてきた。開けてみると中にはその本がもう一冊入っている。あれ、見本はもう貰っているのにな、と思い、そのまま打ち捨てておいた。するとハーパーコリンズの編集者から連絡があって、ウィンズロウさんからのアレ届きましたか、と聞いてくるのである。アレってなんだ、と思ってわからなかったが、よく考えてみるとあれではないか。ああ、あれか。
思い出して、改めてみた。特に変哲もない普通の文庫本であった。しかし、ぱらぱらとめくっているうちに、本のある個所に目が留まった。扉裏、著作権表記があるページである。そこに何かが書いてある。よく見てみると。