杉江松恋不善閑居 新興図書大即売会と神保町・タクト。天中軒すみれ「小栗判官餓鬼阿弥車」口演

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某月某日

昨日から引き続き下読みの仕事を続け、午後になって外出。二つ打ち合わせがあるのだ。一つは来年に出せるといいな、という本について。もう一つは、再来年に出るということは決まっているのだけどまだ作業は始まったばかり、という本。それぞれ課題を整理して終わる。

時間が空いたので神保町へ。新興図書大即売会開催中の東京古書会館へ向かった。大雨の中、ズボンの裾を濡らしながら神保町を歩く。古典籍などが中心の、割と硬めな古書市だが一般書もある。花咲一男編『川柳雑排江戸の飴売り』を発見した。千円である。飴売りはいつか何かの形でまとめたいので見つけると本は買うことにしている。もう一冊『対談の神様徳川夢声の時代1』は深夜叢書社から出た、『問答有用』の単行本未収録回を集めた本である。長谷川伸や江戸川乱歩との対談が入っているのでこれはお得。問題は持っているかもしれないことだが、ダブったらそのとき考えることにする。500円。

神保町に来たのは奥野かるた店の二階で定期開催されている浪曲かるた亭で、天中軒すみれさんが拙作「小栗判官餓鬼阿弥車」を口演されるからである。18時開演なので少し時間がある。東京堂書店で新刊を少し買ったあとで、白山通りへ。どうしても寄るべきなのが芸能系に強いタクトだ。この日も何かありそうな気がして見てみると、ほら、二代目木村友衛『馬鹿な女と言われても』(翼書院)がある。世間的には「浪花節だよ人生は」のヒットで知られるが、大名跡の二代目を継いだ浪曲師の部分に私は関心がある。ぱらぱらと読んでみたら、浪曲の芸能社として知られる新栄プロや西川プロの名前が出てきて、これは当たり、と思った。800円。ご本人の信仰のことまで踏み込んで書いてあり、資料として貴重なものだ。よかった。

定刻通りにかるた亭。演目は以下の通り。

左甚五郎天王寺の巻 東家千春・沢村博喜

小栗判官餓鬼阿弥車 天中軒すみれ・沢村道世

太刀山と清香 富士綾那・沢村博喜

どの演目も節が豊かで客席も大いに沸いた。千春さんの「天王寺」はネタおろし後にかけるのは初めてだったとのこと。すみれさんの「小栗判官」は長い道行きの節に変化があり、以前よりもさらに展開豊かになっていた。照手姫の台詞など啖呵も感情が入っており好演である。この先さらに良くなることだろう。この演目で「浪曲十八番」に出てもらいたい。

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