杉江松恋不善閑居 会社員時代の同期がとても出世していた

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某月某日

すでに情報が出ているが、8月末に〈水道橋博士のメルマ旬報〉で連載していた『芸人本書く派列伝』が単行本として刊行されることが決まっている。ここしばらく、日常業務をこなしながらその初校に赤を入れていた。それを編集者に戻すと同時に、やらなければならないことがある。校閲のために、本を編集部に送る作業である。これが結構な難問であった。

『芸人本書く派列伝』で取り上げたのは芸人本で、すべて保存してある。それはいいのだが、箱詰めして庭の倉庫に収納してあるのだ。その数は10箱以上あり、どこに何が入っているかはさすがに開けてみないとわからない。一応ジャンルで分類してあるものの、書名までは書いてないからだ。折からの猛暑であり、表に出るのは自殺行為なのだがこればかりは仕方ない。意を決して準備をした。水筒を持ち、蚊取り線香を焚いて、いざ庭へ。

倉庫から一箱ずつ取り出して、中を改めていく。滝のように汗が流れ落ちるため、いっぺんに見ることができるのは三箱が限度だ。水を飲み、部屋に戻って体を冷やし、シャツを替えてまた庭へ。この作業を五回ほど繰り返してようやくすべてを見終わった。取り出した本を箱詰めし、初校ゲラも同封して宅急便に手渡す。これでいちばんの難関は通り過ぎた。再校があり、まえがきなりあとがきなりを書かなければならないだろうが、ここまで来れば本は出るだろう。やれやれ、今年最初の単著である。

メールをチェックしたら新しい仕事依頼が来ていた。業務評定は1.0だ。朝に送った原稿は昨日の分として数えているので、稼ぎはない。

元勤めていた会社のニュースがネットに転がっていたので読んでみた。業績が悪化して身売りして、その後はどうなっているのか気にはしていたのである。なるほど、そういうことになったか。

過去のネットニュースを遡ってみて気づいたのだが、いくつかある事業本部の一つで、私の同期だった人物が本部長に就任していた。取締役ではなくて管理職だが、けっこうな出世だと思う。私は最初スタッフ部門に配属された。経理や人事の専門家を養成するコースである。本部長になった人物を仮にAと呼ぶが、彼もその一人で、たぶん経理だったのだと思う。配属先で別れた際、Aは北関東の某拠点が勤務先となった。東京の大学に通っていたAには交際相手がいて、その彼女と離れてしまうことをしきりに残念がっていた。東京に住んでその北関東の拠点まで通えないか、などと考えていたようだが最後はどうしたのか。Aと会ったのはそのときが最後だったように思う。名前を見てすぐにAだとわかったくらいだから、そこそこ親しくはしていたのだが、ずっと縁はなかった。本部長か。出世をしたものである。よかったね。

私はその会社で業績を伸ばしている部署にいた。直属の上司のうち、部長は後に取締役になって定年を迎えたし、商品開発でお世話になっていた技術部の部長も代表取締役になっている。いいところにいさせてもらっていたわけである。辞めたけど。会社には感謝しかない。できればずっと存続してもらいたいものである。

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