杉江松恋不善閑居 草薙・本屋りぶらりおに振られて熱海・ひみつの本屋

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某月某日

青春18きっぷの時季になったので、ちょっと遠出をすることにした。とりあえず出かけなければいけない用事があるのである。

朝いちばんに出て、まずは小田原へ。ここで事務処理をする。なんでもかんでもリモートでやれるようになった世の中だが、お役所仕事の中にはどうしても現地に行かなければならないものも存在するのである。小田原城三の丸ホールにてその用事を済ませ、隣接したカフェコーナーでアイスコーヒーを飲む。まだ10時前だというのに恐ろしいほどの陽射しだ。先が思いやられる。

ここから東海道本線をさらに西に進み、静岡の二つ手前、草薙駅で降りる。JRの駅から静岡鉄道の草薙まで歩いて数分だが、その途中に絵本と古本のピッポ古書倶楽部がある。何度も来たことのある店だが、今回も発見があった。絵本の新刊コーナーにジェイムズ・サーバーの持っていない絵本があったので購入する。ルイス・スロボドキン画の『たくさんのお月さま』である。戦後すぐに日米出版社から出たのが最初で、その後も宇野亜喜良画で出たり、何度か刊行されているが、これは1994年になかがわちひろ訳、オリジナルのスロボドキン画で出たものの復刊版か。サーバーの絵本はこのほかに『おもちゃ屋のクィロー』『そして、一輪の花のほかは……』が邦訳されている。大人向けの『現代イソップ』も絵本といえば絵本か。これで全部揃ったが、異同のあるものはまだまだ買うつもりである。

本日の目的はここではなく、静岡県立大学の近くにある本屋りぶらりおである。前回来たのは、近所にある無料販売所でみかんを売っていたから冬のことか。りぶらりおはアート専門の古本屋だが、写真館を兼業している。どうやらその撮影が入ったとかで、店は開いている気配がするのに臨時休業になっていて、前まで来て入れなかった。再挑戦である。

近くまで来ると、前回は撮影のためかカーテンで覆われ、中が覗けなかったガラス戸が見える。やった、と思い、小走りに駆け寄った。だが、扉に手をかけても動かない。見ればガラス戸の中に店主体調不良のため休業との貼り紙があった。体調不良かあ。じゃあ、仕方ない。お大事にしてください。また来ようと思いつつ来た道を帰る。いいのだ、草薙にはサーバーを買いに来たのだ。

東海道本線を東へ。思い立って熱海の、ひみつの本屋に前売りの連絡を入れた。ひみつの本屋は熱海の古い映画館を改装して作られた店で、無人である。どうやって中に入るのかというと、近所のゲストハウスに鍵が預けてあり、500円で前売りを買うと、それを出してもらえるのである。時間は30分。その間に鍵を開けて中に入る。本は3冊まで数日借りられるのと、気に入ったものがあればボックスに現金を入れて買う仕組みだ。ここは貸し出しだけの本屋だとずっと思っていたのだが、早川書房の古本クレイジー編集者Iが、いえ、買えますよ、と教えてくれたので急遽行かなければならない店になった。

ゲストハウスで鍵を受け取って、すぐそばの路地にある店へ。なるほど古めかしい木の扉に大振りのかんぬき錠がついている。開けて中に入った。

中はそれほど大きくなくて、入り口の対面と左側に天井までの本棚、窓のある右側壁にも低い棚、部屋の中央に大振りな机がでんと据えられている。本はジャンルというよりテーマで別れており、手前側から建築・旅行・食文化・鉄道などの趣味・海外文学という棚があり、左の壁には寺山修司などの文学者のコーナーと小説・随筆を中心にした文庫本、覆い布のある一番上の棚には性愛関連のものがあり、その下には書物関連の本がまとめて置かれていた。小さいが、思っていたよりもまとまった品揃えである。なかなかおもしろく、ゆっくり見たいところなのだが、なにしろここは冷房が扇風機だけで、じっとしていると汗が噴き出してくる。夏場はちょっと辛いところだ。中公新書の立岩二郎『てりむくり』を購入して出た。

鍵を返し、駅前まで坂をずっと上ったら、汗がとんでもないことになった。500円の駅前温泉に入る。ここは100円でフェイスタオルを買うと中に石鹸も入っているので便利だ。上がって買い物をし、また東海道本線に乗って帰宅した。『てりむくり』はなかなかの奇書であった。気が向いて時間があったら紹介するかもしれない。

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