杉江松恋不善閑居 草薙・りぶらりお&狐ヶ崎・ふしぎな古本屋はてなや

Share

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存

某月某日

午前6時に家を出て浜松まで向かうつもりだったのだが、なんだかんだやらなければならないことがあって2時間ほど遅れる。それならば、と方針変更をして東海道本線草薙駅を目指した。先日のリベンジである。

草薙駅で降りたら、ひたすらまっすぐ北上する。静岡鉄道の北側に静岡県立大学があるのだが、そこまでは行かず手前の住宅街の中へ。春先にはみかんの無人販売所があるあたりを過ぎたところに突然、Art bookshop りぶらりおが出現する。これまで二度挑戦して二度とも入れなかった店だ。今回は開いている。やった。

扉が変わっていて、ドアノブがはじではなく中央についている。こういうのは初めて見た。中にはいると広い空間を贅沢に使った作りになっており、手前にセレクトの平台、左に児童書を中心とした本棚があって、右に文化人類学や芸術、zinなどを置いた棚。正面に文庫などの棚があってその左脇が帳場である。品揃えは「アートを感じさせる本」ということで統一されており、何を手に取っても考えさせられる。どれを買っても楽しめそうだったが、新刊の棚から三浦豊『木のみかた』(ミシマ社)、梶谷いこ『細部に宿る』(誠光社)を購入する。

帳場ではクレジットカードを使った決済が可能だった。最初に来たときに店内が写真撮影をしていて入れなかったのを思い出し、そのことを聞いてみた。写真家だった方はりぶらりおを卒業し、今は清水区の別の場所で撮影スタジオを開いておられるとか。広いスペースで落ち着くし、ここで読書会などを開くのもいいだろうな、というような現在の店内である。

店を出ると2時少し前。ここからさらに西を目指してもいいのだが、静岡鉄道が呼んでいる気がする。俺にしばらく乗ってないだろう、と言っている。そうだ、狐ヶ崎だ。

草薙駅から静岡鉄道で二駅行ったところに狐ヶ崎がある。ここには昔有名な遊園地があって、新民謡のちゃっきり節はそのテーマソングとして生まれた。テーマパークの歌という意外な由来である。狐ヶ崎駅から徒歩10分ほど。もう通いなれていて地図を見る場所もない。国道1号線までほんのすぐ、というところにあるのがふしぎな古本屋・はてなやだ。Twitterを見ていると、ときどき均一棚にびっくりするようなコミックを出していて、そのたびに行きたい、と身もだえさせられるのである。いつぐらいぶりだろうか。しばらく放置したから魚影も濃くなっているに違いない。心を落ち着けて中に入る。

何本か通路があり、いちばん右がコミック均一コーナーとおもちゃの棚がある通路だ。ここで発見が。『うる星やつら』アニメ化のときにツクダオリジナルから出た1/12面堂了子のプラ模型だ。おお、やった、と手に取る。1100円と安い理由は箱を振ってみればわかる。音がする。ランナーからパーツが切り離されているのだ。そのぐらいは別にいい。部品が足りなくなってなければいいのだ。これは買う、と心に決める。

いちばん左のサブカルチャー本コーナーでいろいろ発見があるが、木々高太郎編『推理小説読本』を買うことにする。安いのは記名だからだ。別にかまわない。もう一冊、漫画のコーナーで赤塚不二夫のエッセイ『ギャグほどすてきな商売はない』を見つける。前に買ったときは2千円だったが、これは330円だ。安い。これは買わないといけないのだと思う。天国の赤塚不二夫先生が買えと言っているのだ。国会で青島幸男が決めたのだ。でも文章を書いたのはたぶん長谷邦夫のゴーストなのだが。ぜんぜんかまわない。

これだけ手にして店を後にする。静岡鉄道の駅まで戻ろうと思ったが、調べると国道1号線からしずてつジャストラインのバスが出ていて、1時間に1本の便がもうすぐ来ることがわかった。ありがたく乗って清水駅へ。

清水駅から東海道本線に乗って帰宅する。実はこの小旅行、ずっと近刊『日本の犯罪小説』の初校に赤を入れながら乗っていた。途中で相模湾と駿河湾を眺めるときだけ目を逸らす。富士山は麓近くまで雲に覆われて見えなかった。

ゲラを見終えたので熱海で担当編集者に連絡をする。自宅にいるが、取りに伺うとのことだ。調べて「18時40分横浜、19時品川、19時20分恵比寿なのでそのどこかで。トラベルミステリーみたいで申し訳ありません」と連絡する。「たしかに停車時間が重要ですね」と編集氏。無事に受け渡しはできた。「なぜ静岡に」と聞かれたので「未訪の古本屋が2軒あって、そのうちの1軒をつぶしに行ったのです」と答えたら笑われた。あと1軒、そう、あと1軒である。

Share

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存