杉江松恋不善閑居 木馬亭七月定席三日目と高円寺・本屋 本の実験室

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某月某日

12時15分から浅草木馬亭で定席公演なので、それに合わせてもろもろ準備をしていたところ、大阪から電話が入る。一心寺浪曲寄席で来年1月19日に行われる東西浪曲会のチラシを配っていただけることになっていたのだが、手違いで届いていないとのことである。とりあえず三日間興行の中で初日は仕方なく、二日目以降にお願いしようということで宅急便で送る相談をした。見れば手元には100部程度しかなく、足りないので木馬亭に置いてある分を追加して送らなければならない。急いで家を出た。電話をして、9月28・29日の松浦四郎若独演会のチラシも送らせてもらっていいか確認をし、それも追加で持つ。もともと木馬亭には四郎若のチラシを置きに行く予定でもあり、9月・10月の浪曲公演の新しく刷り上がったものも持っていくつもりだったので、異常な重さの紙を抱えることになった。浪曲を聴きに行く人の荷物ではない。

あ、9月28・29日の松浦四郎若公演と、来年1月19日の東西浪曲会は私の主催なのです。ぜひご予定を。新しい公演とは、9月8日夜の広沢菊春独演会と、10月26日昼の鳳舞衣子独演会である。こちらもぜひ。

というような話はさておき。木馬亭で入場料を払って中に入り、チラシを受け取って外に出た。ホッピー通りを抜けたところにヤマト宅急便の集荷所がある。よく行く喫茶店ローヤルの向かい側だ。こんなところで宅急便を出せるとは知らなかった。どんどん浅草に土地鑑がついてくる。集荷所は思ったよりも込んでいた。浅草観光旅行から自宅へ荷物を送りたい人が来るらしい。前にいる家族連れは、沖縄に荷物を送る相談をしている。生ではなくて半生みたいなものをクールではなくて普通便で送っていいかという話をしていて、ヤマトの職員があれこれ説明していた。生ではなくて半生の、浅草で売っているもの、なーんだ。クイズのような考えが頭を巡り、なかなか答えは出てこない。なんだろう。海苔は生じゃないしな。

半生問題に解答は出なかったが宅急便を送ることはできた。木馬亭に戻ると二番目の出演の東家千春さんがまだ口演の最中だった。あれ、と思ったら、どうやら主任の東家三楽さんが休演となって、開口一番に東家一陽さんが急遽入り、一つずつ繰り下げになっていたらしい。そういうことかと納得、休憩前は澤雪恵さんの「死神」であった。二代目広沢菊春作の落語浪曲で、あの有名な落ちをどうするのか関心を持って聴いていたら、いかにも浪曲らしい逸らし方だった。現代のお客さんにはもう少しピリリとした落ちが好まれるかもしれない。難しいところだ。

中入り後は東家三可子さんで「歌川国芳一門黒猫異聞」。これはたしか、立川志のぽんさんが落語化していたネタではないかと思うのだが、記憶違いかもしれない。この日は怪談特集なので化け猫ものである。脚色は三可子さんのネタをよく手掛けている北角文月という人だ。お会いしたことはないのだが、どういう方なのだろうか。

次の講談は神田松麻呂さん、「慶安太平記 楠木不伝の闇討ち」を読む。松麻呂さん、びっくりするほどよくなっていた。けれんもたっぷりだが、何よりも声がよく、話にすっと引き込まれる。両のてのひらで掴んで奥に連れていかれる感じがあって、とても聴きやすかった。聴いた中では、この日のベストだったかもしれない。

モタレ(トリの前)は木村勝千代さんの「神霊矢口渡」で、平賀源内原作の浄瑠璃が元である。勝千代さんの先輩にあたる浦井伝蔵氏脚色だとか。かなり盛りだくさんな内容を振り付けも多用して賑やかに語る。長くやれば40分以上はあるはずで、それをコンパクトにまとめていた。これだけ動きのある浪曲というのも珍しいのではないか。節も多いが人形浄瑠璃風の当てぶりが見どころかもしれない。四段目の頓兵衛住家の段と渡し場の段をダイジェストした内容になっており、お舟という娘が可愛く演じられるのがポイントである。

最後は東家一太郎さん、「怪談浪曲 小夜衣草紙」で終わりを飾った。寄席読みの春日清鶴が得意にしていた外題なので、捨てられて恨みを残して死んだ遊女が化けて出るという陰惨な話なのに、随所に笑いが散りばめられていて聴きやすい。これはもっと掛けてもいいネタだと思った。

終演後、いろいろ用事を済ませて木馬亭を後にする。総武線に乗って一路高円寺へ。西部古書会館で好書会なのである。紙モノなどもあってなかなか見ごたえがあった。駅に戻る前にちょっと寄り道をする。この数日前から、古書コクテイルが本の長屋に続く二軒目の分店、「本店 本の実験室」を開いていたのである。都丸書店のあった道をしばらく歩いていくと、古書コクテイルがあり、その先が本の長屋だ。事前情報ではコクテイルの隣に店があるはずなのだが、それらしきものがない。おかしい、と思って戻ってみると、コクテイルと道をはさんだ隣にある床屋のポールが、青と赤ではなく緑と赤のリボンが回るものになっていた。見れば、店先に小看板も出ている。あ、これがそうなのか。床屋の居抜きなのだろうか。おもしろく思いながら中に入る。

本の実験室は、シェア型本屋であるという。まだ棚は埋まり切っておらず、本の長屋との差別化も明確ではないのだが、これから色がついていくのかもしれない。あれこれと眺め、楠見清『無言板アート入門』(ちくま文庫)を買って出る。この本、新刊発売時に買ったのだが、家の中で行方不明になってしまってまだ読めていなかったのだ。

帰宅してちょっとお仕事。来週に迫っているアガサ・クリスティー賞最終選考の候補作、最後のひとつを読み終えた。自分が推す作品は決定している。どういう議論になるのか、楽しみだ。

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