台風なので一日籠って仕事。相変わらず奥泉光と格闘している。
先日、浜松の典昭堂でずっと探していた全集を見つけたと書いたが、上にあるのがそれである。集英社『学習漫画日本の歴史』だ。
歴史を扱った学習漫画は各社から出ている。集英社からも1968年に全18冊で刊行された。和歌森太郎監修で、作画は初めカゴ直利、幕末篇から宮坂栄一に切り替わった。変更の理由はよくわからない。カゴは1920年生まれだから、この本の執筆時にはまだそれほどの高齢というわけでもなかったはずだ。
この1968年版が第1期で、その後集英社は何度か『学習漫画日本の歴史』を出し直している。岸本斉史や荒木飛呂彦が表紙を描いたことで話題になった版もあったと記憶する。私も第2期は手に取ったことがあったが、全部は読んでいない。最初に読んだカゴ版の記憶が強烈すぎたためである。
第1期の『学習漫画日本の歴史』は、はっきり言えば講談であった。第2期以降は文字通り「学習」を目的とした内容で、歴史考証などもしっかりしているのだろうと思わせた。第1期はそうではなかった。たとえば神功皇后伝説のような、歴史的記述としてはあやふやなものが平気で取り入れられている。特に顕著なのは戦国期や源平時代の巻で、はっきりと軍談を意識した内容になっているのである。英雄譚が中心なので、当然おもしろい。ただし、学習には向いていない。余計なことまで頭に入ってしまうことになる。
下の画像は小牧・長久手の戦いにおける徳川家康と豊臣秀吉を描いたものだ。カゴは信長のような怜悧な美男子を描くとだいたい同じ顔になるのだが、秀吉の猿顔や家康の狸顔には実に味があった。今でも私は二人の名前を聞くと真っ先にカゴの絵を思い出す。
たぶん私の原点にあるのは、この集英社版の歴史巷談なのだと思う。歴史語りとしては不完全だが、とにかくおもしろい。大学で歴史をやって、属人主義の考え方がいかに偏狭なものかを学んだ。だから第1期の歴史漫画が絶版になって以降顧みられなくなったのは正しいことだと思うのだが、ただこの物語としてのおもしろさだけは愛すべきなのである。
なるほど、だから講談や浪曲、もっと言えば稗史小説が好きなのか、と合点した次第。この歴史漫画、演芸好きな方は絶対におもしろく読めると思うのである。