熱が下がったところで原稿を2本入れ、ばっと出かける。この原稿料で10月に稼がなければならない金額への進捗率は38.28%に。まだ全然足りない。
出かける先は、まずJR京浜東北線の浦和駅である。降りて浦和宿古本まつりに急いで向かう。ここでは妙に相性がよくて、来るたびに何かを拾えるのだ。
この日が初日で、露台を見出すとすぐにあった。『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』(岩波文庫)である。16世紀に出版された作者不詳のこの小説こそが、いわゆるピカレスク・ロマンのすべての原型になった作品だ。持っていなかったのですぐに購入を決める。100円なんてただみたいなものである。もう一冊、木村毅『都々逸坊扇歌』(高山書院)を発見。『小説研究十六講』の木村にこんな評伝小説がありましたか。これも買って合計900円。
『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』を読みながら京浜東北線で戻る。父親が戦役で死んだために母の手で育てられたラサーロは、従者として買われて故郷を離れ遍歴するが、主になるのは度外れた吝嗇漢や見栄坊の貧乏人ばかりで、常に飢えてばかり。その苦労を綴った滑稽小説だ。構成は無茶苦茶だし、最後は尻切れとんぼ気味に終わるので、『源氏物語』よろしく雲隠の巻があるのでは、と原典を調べたくなるくらいだが、そういうことを不問に付してもいいくらいおもしろい。吝嗇の主人がパンを全部鍵付きの箱に隠してしまい、ラサーロが鼠のふりをしてそれを盗み食いする、という攻防戦のくだりは、いつ読んでも大笑いする。ここから滑稽小説と犯罪小説の流れが生まれたのだ。
日暮里駅について、YouTubeチャンネルの動画を収録する。終わってからすぐそばのリセールショップ・ディーン日暮里店へ。DVDやアダルトなどが中心の店だが本もある。見たらジェイムズ・サーバーの絵本『おもちゃ屋のクィロー』(岩崎書店)があったので購入する。ダブりなのだが、誰か必要とする人もいるだろう。近所で収録の打ち上げをして帰宅。『ラサリーリョ・デ・トルメス』で火がついたから、しばらくはピカレスク・ロマンの古典を再読しようかな。