杉江松恋不善閑居 スギエゴノミにご来場ありがとうございました

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某月某日

アートスペース兜座にて一日〈スギエゴノミ〉である。今日はいろいろな会が裏であって、特に浪曲ファンのかぶりが凄まじいが、がんばろうと気合を入れて家を出た。物販の本も持参していて荷物が重いのなんの。会場に到着すると東家志乃ぶさんがいて、ほどなく曲師の沢村理緒さん到着、東家千春さんもやってきて、会場のTさんも交えて突貫で開場作業を進める。設営は他の方に任せて私はチラシセットとチケット作りに没頭した。日付と値段のスタンプを押して作るのだが、この日は3公演全部入場料が違うので大変なのだ。

午前11時開演。

「双蝶々感謝里入」

借金奉行 志乃ぶ・理緒

中入

わんにゃん物語(作・三遊亭白鳥) 千春・理緒

トーク 一同

2023年に千春さん・志乃ぶさんの勉強会をアートスペース兜座で行った。同年11月にお二人は落語で言う二ツ目昇進を果たし、勉強会を卒業した。1年の成長を応援してくださったお客さんに見ていただくという主旨である。古典と新作、涙と笑いという対象的な外題でお客さんをよく沸かせてくれた。プロとして申し分のない公演であろうと思う。これからもがんばってください。次に二人で来てもらうのはいつになるか未定。また別の趣向があるときにぜひお願いしたい。

公演中に次の出番の鳳舞衣子さん、曲師の佐藤貴美江さんが到着される。なんだか寄席みたいだ。第二控室があるので、そちらでお待ちいただき、終演と同時に楽屋に移動いただいた。鳳舞衣子さんは既存の一門に属さず活動しているベテランの浪曲師で、他にないネタや演出を持っている。ぜひ一度お願いしたいと思っていた。

午後2時開演。

三味線やくざ 舞衣子・貴美江

中入

君が代の出来るまで 舞衣子・貴美江

「三味線やくざ」は私のリクエストで、途中に芝居の「勧進帳」が演じられる場面が入る。演芸のネタ中に他のネタが挿入されるのをアンコと呼ぶが、これもその一種だろう。その変化が楽しいのと、前半の絶望的な雰囲気がクライマックスでぱっと明るくなるところが好きなのである。もう一席は「君が代」の国家としての成立に尽力した林廣守の物語。

お二人が帰り、一人になってまたスタンプ押しとチラシセットに勤しむ。午後4時過ぎに活動弁士の坂本頼光さんが、同門の若き後輩・尾田直彪さんを伴って来場される。アートスペース初の無声映画会である。会場のTさんはこの日のためにスクリーンを購入した。これから映画の会も開いていきたいと張り切っている。初めての会ゆえ、客席の配置も相談を重ねて本番を迎えた。

「坂本頼光活弁ライブ」

ジャックと豆の木

弥次喜多 岡崎猫退治

中入

番場の忠太郎 瞼の母

「ジャックと豆の木」と「岡崎猫退治」は滑稽な内容で頼光さんライブの定番だ。中入を挟んでの「番場の忠太郎 瞼の母」が素晴らしかった。長谷川伸の原作を監督の稲垣浩が脚本化したものである。頼光さんによれば当時長谷川伸は、自身が生き別れの母と再会を果たしたため、気持ちを傷つけるのではないかと危惧して「瞼の母」上演を禁じていた。それを物語にほれ込んだ稲垣が口説き落としたのだという。内容はおなじみのものだが、映画ならではのふくらまし方になっており、特に結末が素晴らしい。主演の片岡千恵蔵、当時14歳だかの山田五十鈴、母親役の常盤操子の名演は本当に胸に迫る。これを頼光さんの映画説明でご覧になれたお客さんは得難い体験をしたのではないだろうか。

終演後は手早く片付けをし、そそくさと帰る。充実した一日だった。

次回は11月23日、昼の部は木村勝千代さん、夜の部は天中軒景友さんの独演会である。お楽しみに。

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