杉江松恋不善閑居 お籠りから蒲田・ニューエイトにて天川流那ライブ「月祭」

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某月某日

木曜日は朝から、ミステリーファンも文芸読者も一切注目することはない原稿を書いていた。注目されないが、ある。そういう仕事が世の中にはあって、もう15年ぐらい私が担当している。正直、誰かが代わってくれと言ったら喜んで任せるのだが、そういう人は現れなかった。たぶん今後もずっと現れないだろう。私がやれ、と天が言っているのだ。ならばやるしかない。やるしかないからやる、という仕事もこの世にはあるのである。

それを送り、あとはひたすら仕事読書。途中で旧知の編集者から電話が入り、ごにょごにょ密談する。来年に向けて企画を手伝ってもらいたいという話だった。喜んでお受けする。どういう形でお金が発生するか皆目わからないのだが、おかしなことをされないだろうという信頼関係はある。もう20年来の知りあいなのである。だがあと数年で停年になる、と聞いて驚く。私の周囲もいよいよそういう年になったのだ。

その他、来年の前半に予定している仕事関連がぱたぱたと慌ただしくなり、いろいろと連絡が入る。具体的に日程が決まったり、方針変更についての問い合わせが入ったり。それに応えているうちに夕方になっていた。

三日ぶりの外出である。日本浪曲協会副会長でもある曲師の佐藤貴美江さんは、天川流那の名前でシンガー・ソングライターとしても活動している。その年に一度のライブ「月祭」が都内で開催されるのである。会場は蒲田駅から程遠いライブスポットのニューエイトだ。

会はいきなり、浪曲風に始まった。テーブルを前に天川流那こと佐藤貴美江さんが、三味線を弾きながら語る。横には弟子の佐藤一貴さんがついて、二丁三味線だ。何を語るのかといえば、新見南吉の「てぶくろをかいに」だった。そういえばチケットを貴美江さんから買ったとき、浪曲も少し、とぽそっとおっしゃっていたっけ。なるほど、これか。童話の世界が浪曲の三味線に乗って語られ、鮮やかに銀世界が浮かび上がる。いいお外題でした。

そこから小さなトークコーナーを挟み、ゲストの出津彩子さんとのデュオで第一部は終了。第二部は貴美江さんがシャンソンを中心に歌いまくるコーナーだった。大盛り上がりで終了。楽しかった。

照明が元に戻ったとき、横から「杉江さんこんばんは」の声が。振り向くと、曲師の玉川みね子さんだった。誰かが途中で来た、ということだけは気づいていたのだが、暗くてお顔まではわからなかった。客席には浪曲関係者もちらほらいて、帰ってきたような気分になる。蒲田は盛り場が賑やかだが、おとなしく帰宅した。翌朝が早いのである。

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