杉江松恋不善閑居 天中軒景友さんが交通事故にあった日

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某月某日

金曜日。ネット配信番組への出演予定があり、午後から出かけた。会場に入る前にスマートフォンを見てびっくり。明日の兜座〈スギエゴノミ〉夜の部出演者である天中軒景友さんから「緊急連絡」という題名のメールが入っていた。翌日の出演者から緊急連絡が入るというのは、三つしかない。一、自分が出演できなくなった、二、共演者(この場合は曲師の広沢美舟さん)が出演できなくなった、三、二人とも出られなくなった。二、三はないとすぐに判断した。なぜならば午後の部出演者の木村勝千代さんも美舟さんが曲師を務める予定であり、出られなくなったのであれば直接私に連絡が入るはずだからだ。一の景友さんが出られなくなった、だろう。原因は何か。とりあえずどういう対策をとるのが正解なのか。

メールの内容を知りたかったが、電波不良なのかなかなか本文が下りてこない。収録時刻も迫っており、やむなく気持ちを切り替えて中に入る。

この日お会いしたのは、一方的には存じ上げているが初対面の方ばかりである。そのうちに番組として配信されるそうなので、名前を挙げることは控えておく。初顔合わせでどうなることかと思ったが、話は盛り上がった。よかった。時間をかなり超過して収録は終わった。すぐにスマートフォンを見る。と、本文が下りてきていた。

ご本人がデマが広がらないように事実を拡散したいとおっしゃっているので、書いてしまう。なんと、赤信号無視の車に跳ねられて骨折したという内容だった。空中で一回転するほどの飛ばされようだったらしい。それでもメールを書けるほどだから、意識ははっきりしているらしい。全身打撲なのと、頭を打った可能性があるので、十日間ほど安静にする必要があるとのこと。いや、そうしてください。浪曲を唸ろうとしてプッツリ、なんてことになったら取返しがつかない。景友さんに、とりあえず何も考えなくていいから安静にして体をいたわってください、と連絡した。

景友さんは現・日本浪曲協会会長の五代目天中軒雲月門下だ。その雲月さんから電話がかかってくる。弟子が申し訳ない。いやいや不可抗力ですから申し訳なくないです。被害者です。代演として月子を行かせます。あ、ありがとうございます。天中軒月子さんは、景友さんの姉弟子で、一門の惣領である。普段は静岡県にお住まいだから、わざわざこのために出て来てくださることになる。たいへん申し訳ないが、すでに雲月さんが手配してくださっているのであれば、会を中止にせず、そのご提案をありがたく頂戴すべきであろう。これで開催は決まった。

急いでしなければいけないのは、予約をいただいているお客様への連絡である。何本もメールを入れている間に、都内某所に着いた。この日はとみさわ昭仁さんと「ハ、ハ、ノンフィクション」の収録をする予定だったのだ。収録場所に行き、とみさわさんに実はかくかくしかじかで、と説明をしてから収録に入る。収録中はスマートフォンは切ってあるのだが、電源を入れてみたらどっさりと連絡が入っていた。うん、私もびっくりしています。あれこれと返事をしているうち、あっという間に時間が経っていた。やれやれ。でも仕方ない。できることは全部やった。あとは当日である。人事を尽くして天命を待つ。(つづく)

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