杉江松恋不善閑居 オールドメディアを蔑む人は編集・校閲者の偉大さを知らない

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某月某日

一日籠って仕事読書。成果物は残念ながらできなかったのだが、単発仕事の依頼をいただいたので業務評定は1.0。今日こそ頑張る。

ネットニュースで流れてきたが、福岡観光サイトが全記事をAIに作成させたために、虚偽の情報を掲載してしまい、閉鎖に追い込まれたとか。後援していた福岡市・飯塚市はそれを取りやめたというが、最初からしちゃだめだと思う。

なぜかと言えば、件の会社はITソリューションを主業としていて、取材と裏取りが必要な記事作成の実績がどこまであるかよくわからないからだ。後援しちゃった時点で甘かったと言われても仕方ないだろう。

AIによる記事作成は、現時点ではまだ精度が悪い。単に文章を作成するだけならともかく、裏取りがどこまでできているか疑問がある。AIによる文章作成そのものが駄目だと言っているのではなくて、その精度を上げるために蓄積されたノウハウがあって、それにはまだ及ばないということである。

オールドメディアという言い方は嫌いである。旧弊のように言われる従来の出版・新聞事業の従事者を尊敬しているからだ。それぞれの部署にスペシャリストがいる。その中には確かに、もう時代と波長が合わなくなっていて、他業種を見習ったほうがいいのではないかと思われる部分もある。だが、著者と交渉して刊行物の精度を上げていく編集者や、事実誤認・誤記を除去する校閲者は尊敬すべき人々だと私は思っている。編集者・校閲者なしに執筆者は完成度の高い商業原稿を仕上げることは不可能である。

ネットメディアにももちろん優れた編集者は存在する。知っている人はみな紙媒体からの転籍組だが、中にはネット生まれネット育ちの方もいらっしゃるだろう。これもメディアが成長していくうちに、全体の習熟度は上がっていくはずだ。ただ、ネット専門の媒体で優れた校閲者がいるという話は今のところ聞いたことがない。

件の福岡観光サイトがどんな体制で作られたものかは知らないが、編集・校閲という作業を経ずにやってしまったものだろうと想像している。先人に学ぼうとしなかったゆえの愚だ。

もう一つ気になっているのは、その制作会社が東京の企業だったことで、こうした会社が地方発の編集者・ライターの仕事を奪っているのではないかという気がしてならない。ただでさえ一極集中しがちな業種であるだけに、地元業者がいるのであればそちらを優先してもらいたいと思う。福岡市・飯塚市に同情する気になれないのはそこで、東京もんが何かおいしそうなことを言ってきたからといってなびくな、と思うのである。

何べんも書くが、手作りの文章がよくてAIが悪いと言っているわけではない。公にする文章・記事というものは作りっぱなしでいいわけではなくて、公開していいものにするためにはまだまだ人間による作業を経る必要がある、その段階だと言っているのである。これも急速に改革されていくかもしれないが、技術を使う人間にファクトチェックの気構えがなければ意味がない。楽じゃないのである、記事を書くということは。

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