杉江松恋不善閑居 浪曲「じゃりン子チエ」東京公演その1顛末&2025年のプロジェクト

Share

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存

某月某日

12月7日は真山隼人・沢村さくらコンビによる浪曲「じゃりン子チエ」東京公演の第一弾だった。台本は隼人さんがはるき悦巳さんサイドに持っていかれる前に拝見していたので、どういう話になるのかはだいたい承知していたのだが、やはり自分で聴いてみないとわからない。どきどきしながら会場の北区王子北とぴあを目指した。

会場となった北とぴあドームホールはもともとプラネタリウムだった場所で、勾配が強い独特の形をしている。中央に映写機械のドーム跡があるので座席が若干潰れてしまうが、それでも十分な数がある。問題なく口演していただけるだろう、と思っていたら下見に行ってとんでもないことがわかった。

演台がないのである。あるにはあるが、丸テーブルだ。

浪曲の場合、どうしてもテーブル掛けを使うので、四角い演台が必要になる。建物内の他のところから持ってきてもらえないか、と聞いたのだが、移動は認められないという。困った。丸テーブルはあるわけで、その上に四角い天板を置くことでなんとかすることにした。浪曲仲間のKさん、Tさんが手伝ってくださることになり、ほっと一安心して当時を迎えたのである。

会場を借りられるのは18時から21時までと短い。午後の時間であれば4時間なのだが、夜は3時間なのである。どんなに早めても19時開演がぎりぎりだろう。つまり18時に施設に入って30分で支度をし、客入れをしなければならない。Kさん、Tさんに受付をしていただき、私は間で物販をしながら不慮の事態に備えるということで相談はまとまった。控室は別の階にあるので、16時にそこに入り、チラシの折り込みなどを済ませる。17時に真山隼人・沢村さくらのお二人が到着。だが、まだ会場には入れない。

18時になってようやく入場でき、ばたばたと設営を行う。ここでまたとんでもない事態が判明した。テーブル置きのマイク台ががなく、スタンドマイクを演者の顔に向けて置くしかないのである。演者としては体の前にスタンドのバーが来ることになり、やりにくいことこの上ない。しかしあるもので行くしかないだろうということで意見がまとまった。だが、このマイクスタンドは首の部分が甘くなっているらしく、ぶらぶら動いて隼人さんの声を拾ってくれない。気になったが、とりあえず私は受付に戻った。そんなわけでぶっつけ本番の客入れだったので、いろいろご不快な思いをさせてしまった方もいらっしゃると思う。この場を借りてお詫びする次第です。

19時、開演。マクラで隼人さんが、この会場は21時に完全撤収だから絶対それまでに建物を出てもらいたい、ということを話してくれた。そうしないと北とぴあから出られなくなってしまうらしいのだ。前半は初心者向けに浪曲レクチャーの時間で、中入ををとって「じゃりン子チエ」長講という運びである。

すぐに中入になり、物販の『じゃりン子チエ』が飛ぶように売れる。物販はだいたい入場者数の1割ぐらいが目安だと思うが、この日はその倍近く売れた。口演されている物語の原作なのだから当然だろう。次回も第1巻は持ってくる必要があるな、などと販売しながら考えた。ちなみに拙著も持っていったが、宣伝する余裕がないのでほとんど売れず、『浪曲は蘇る』だけが1冊出た。これは自宅在庫だからいいのである。持って帰るのが面倒臭かったが。

中入が終わり、いよいよ「じゃりン子チエ」である。台詞はすべて原作から抜粋したもので、前半はたくさんの登場人物を紹介しながら緩やかに進む。マサルとタカシは一見賑やかしのようだが、チエのやるせない気持ちを描くためには必要なのである。小鉄はチエの「お前はテツと同じだからコテツや」という台詞を引き出すためにいる。こうして物語はチエが、家出した母のヨシ江が家に帰ってくれるように奮闘する展開へと入っていく。ここは少女の健気さがよく出ていて涙を誘った。原作通りだが、能天気にチエが歌うのを実際に声で聴かせるから、その真意を知るヨシ江のしみじみとした台詞が胸に迫るのである。すべてが計算されており、見事な台本、見事な口演、見事な三味線だった。

登場人物では真山隼人型豪傑の典型である花井拳骨の存在感が際立った。今回の物語のキーパーソンだからこれは成功だろう。「じゃりン子チエ」は群像劇だから、毎回チエを巡る登場人物の誰かが物語の牽引役となり、誰かにスポットが当たる形になっているのだ。今回は拳骨の豪快さが、子を思うヨシ江の大人の女性らしい内面を際立たせることになった。

明るく歌い上げて終演。次回、第二弾は小鉄とアントニオ父子の関係を描く猫たちのドラマとなることが予告された。大阪公演は4/5(土)、東京公演は4/12(土)である。宣伝物が出来上がり次第告知が行われると思うが、予約はもう受け付けているのでどうぞ杉江まで。

また、この日真山隼人さんがらみの大プロジェクトがもう一つ発表された。京極夏彦『巷説百物語』浪曲化である。私はしばらくこのために関係者と調整を図っていた。京極さんと隼人さんの顔合わせが11月に入って実現し、ようやく公表の運びになったのである。こちらは初演が来年7月19日(土)となる。会場は同じ北とぴあ、階が変わってペガサスホールである。

もう一つ、来年7月12日(土)には関東浪曲界若手のホープ、天中軒すみれさんのある浪曲会が行われる予定だ。こちらはまだ関係者との調整が終わっていないので、12月7日の段階では極秘プロジェクトとのみ発表した。場所はすみれさんの本拠地である湘南地方にほど近い、小田原三の丸ホールである。こちらの詳細発表にはまだ時間がかかりそうだが、ぜひ7月12日の予定を開けておいていただきたいと思う。後悔はさせないだけのびっくり仰天するような浪曲会になるはずなので。

今後とも〈Rokyoku-Extended〉プロジェクトにご期待ください。

Share

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存