某月某日
もう過ぎてしまったのだが、備忘録としてここ数日のことを書き留めておく。
まず日記の止まった先週木曜日から。
この日は大物原稿があり、朝からそれにかかり切りだった。なんとか正午までには終わらせたいと思うものの、最後の最後で行数超で悩まされた。編集者にぎりぎりの文字数を聞いているのだが、その中にどうしても収まらない。焦りに焦ったところで、あ、ここを切ればいいのか、という解決策を発見し、あとはばた、ばた、ばた、と進んでいった。だいたいそういうものである。正午をやや過ぎたが送稿。この原稿で苦戦した模様は「また首の皮一枚でつながった」の日記にも書いてある。
夜は池袋コミュニティカレッジの講師仕事だったが、少しだけ余裕があったので浦和宿古本まつりに10分だけ寄ってから行った。18時閉場の会に17時40分に着いたので、ほんの流し見程度である。
翌金曜日は午前中に外出して、五反田へ行った。南部古書会館の五反田古書展である。東京古書会館のぐろりや会と迷ったが、こっちを選んだ。あっちはあまり相性がよくないのだ。
一階が均一に近い放出コーナー、二階が目録に載っている本会場である。その二階で富永一朗の珍しいグルメガイド『東京珍味たべある記』(柴田書店)と持っていない石原慎太郎『理由なき復讐』を発見。前者は富永の著書でも希少本だし、後者はほとんど読んだものばかりの短篇だけど要るのだ。ほらやっぱり南部とは相性がいい、と会計を済ませて階段を下りる。
一応覗いておかなくては、と思いながら立ち寄った放出コーナーで大発見があった。A・E・W・メースン『モンブランの処女』(朋文堂)である。ご存じのとおりメースンは『矢の家』で知られる探偵小説作家である。本作は山岳小説なのだが、後半にミステリー要素もあり隠れた名作だと思っている。戦前に日本公論社で訳されており、その改題版『氷河を越えて』も出た。朋文堂版は戦後の出版だから最も新しく手に入れやすい。入手しやすいといっても程度の問題で稀覯書であることには変わりないのでありがたく買っておくことにする。
私がこの本を発見するのは二回目だ。一回目は松本で、二回目がこの日。朋文堂版は以前川出正樹氏にいただき、『氷河を越えて』は日下三蔵氏から分けていただいたので、家には今『モンブランの乙女』が四冊あることになる。でも見つけたらまた買うだろう。ダブりは知り合いで欲しい人がいれば差し上げるが、誰もいなかったらPASSAGEの棚に出そうと思う。