杉江松恋不善閑居 近鉄奈良・古本屋えっちゃん堂と一心寺門前浪曲寄席、真山隼人独演会

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某月某日

せっかく奈良まで来て拝観をしないのはもったいないので、智林堂書店から三条通りを渡り、興福寺まで行ってくる。阿修羅像をひさしぶりに拝んできた。

そこからまた南に引き返す。そろそろ時間である。智林堂書店からはちょっと東に行って路地を南に降りたぐらいの場所、カフェの二階にあるのが古本屋えっちゃん堂だ。古本好きの店主が近年になって始めたとのことで、靴を脱いで上がるタイプである。雰囲気としては宇都宮・風花野文庫や向島・甘夏書店に似ているか。上がってみると二間から成る構造で、右側の部屋が奥に帳場がある主室で、隣の別室には均一本が並べられていた。文学書や実用書、絵本が主で、奈良や仏教関係の本もあるが全体的には一般の人にも親しみやすい雰囲気になっている。

手前に店主のお薦めコーナーがあり、芸人本で持っているか自信のないものがあった。ダブってもいいか、と帳場に持って行ったところ、思ったよりも値付けが高いことを知ってびっくり。それなら止めておきます、と申し訳ないが断った。あとで調べたら巷でも結構な古書価になっているようだ。知らなかった。空手で帰ろうとしたら、古本屋巡りをされているんですか、と聞かれ、地図を頂戴した。えっちゃん堂のご主人が作られているとのこと。今日はこれで帰るが、後日のためにありがたく頂戴した。

来た道をてくてく歩いて戻り、再び快速やまとじで天王寺へ戻る。またもやぎりぎりで、一心寺門前浪曲寄席の開演に間に合った。本日は昨日と順番が代わり、菊地まどかが開口一番で「いのちの螺旋階段」、トリが五月一秀「楠公桜川の別れ」であった。「いのちの螺旋階段」は作者を失念したが東日本大震災の実話を描いたもので、浪曲十八番でも流れたことがあると記憶している。「楠公桜川の別れ」は芦川淳平作。一秀の高低差のあるオトシが効果的で情感が掻き立てられる。こういう渋い声の浪曲師、東京にはいないのだよなあ。天中軒一門は、弟子かおりが「琴櫻」。ちょうど大相撲大阪場所が始まるからぴったりだ。師匠雲月は「徳川家康少年時代 人質から成長まで」。私にとっては聞きなれた外題だが、安心して楽しめた。

会場には東京からKさんも見えていた。ご挨拶をしそびれたが、どうせ夜の会でまた顔を合わせるのである。その並びにいらっしゃったのがMさんで、実は大阪に来た目的の半分はこの方にご挨拶することだった。近くの場所に移って二時間ほどお話した。濃密な内容で触発を受ける。ああ、がんばろうと思った。

Mさんと別れたのが午後6時過ぎ、そこから堺筋線で谷町六丁目まで北上する。そこの高津神社で、真山隼人29歳最後の浪曲会が開かれるのだ。初めて入った会場はそれほど大きくないが満席になった。この日の演目は演歌浪曲「ああ、吉田松陰」と「勧進帳」の二席。どちらも古くからやっている外題ということだが、しっかりと15年の成長を味わわせてもらった。明日は30歳最初の浪曲会だというが、仕事があるので東京に戻らなければならず残念である。終演後は有志で飲み、Kさんと共にホテルに戻る。

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