気を取り直して。
前に書いたように、日曜日は博麗神社例大祭in静岡だった。12時から16時が開催時刻であったので、終了後は会場の静岡ツインメッセから県立病院行きのバスに乗り、葵区の北部にあるあべの古書店を目指した。
2024年までは、年に何度かは静岡を訪ねていた。青春18きっぷで日帰り旅行をするのにちょうどいい距離だったからだ。今回のJRの制度改悪で、18きっぷは三日か五日で連続して使わなければならなくなった。そのせいもあり、今年になってからはまだ一度も静岡駅で降りていなかったのである。しかし静岡は、年に一度は来なければならない街だ。というかあべの古書店と水曜文庫に来なければならない。
あべの古書店がある通りは浅間神社への参道である。それゆえか、夕方になるとぱたりと人影が絶える。静かな道を歩いていくと、左側にあべの古書店が見えてくる。道路際に棚が出ているのは、営業している証拠だ。この店はお休みのときも無人販売で端本の棚を出している。代金はシャッターの新聞入れに払うのである。そのときは道路際の棚は出ない。なので出ているのを見れば遠目でも営業中であることがわかる。
すいぶんのご無沙汰になってしまったので、念入りに棚を見た。ジャンルごとに細かく分かれた棚の、日本文学ゾーンに発見があった。石原慎太郎『若い獣』(新潮社)である。もしかすると持っているかもしれないが、初期石原慎太郎は見つければ必ず買うのだ。
帳場で精算をすると、ご主人に「今日はたくさん人が来ましたか」と声をかけられた。例大祭で来たことをツイッターで書いているから、ご存じなのだ。無沙汰をお詫びして、表に出る。
そこから南東に向かい、左折して北街道に入る。やがて右手に見えてくるのが水曜文庫である。
店内に入って、ご主人に挨拶をする。以前、一箱古本市でお世話になったから顔見知りなのである。
見れば入ってすぐのテーブルに、おもしろいものがある。中村宏樹『藤枝遊里史』である。東海道を歩いていたこともあり、各地の遊廓資料に関心がある。見つければ必ず買うのだ。
ただし、本は『藤枝遊里史』だけではなく『焼津遊里史』と二冊ある。一冊は持っているのである。昨年暮れにカストリ書房で開かれた遊廓本のフェアで購入したのだ。どちらかはあるんですけど、とお伝えするとご主人が、『藤枝遊里史』が出たのは今年の二月だ、と教えてくださった。ならば昨年買ったはずはない。じゃ、こっち。
他に何かないものか、と棚を物色しているととんでもないものが目に入った。岩井眞實『近代博多興行史 地方から中央を照射する』(文化資源紗だ。
私は浪曲の地方興行に関心があり、できれば何かの形でまとめておきたいと思っている。ただ、資料の残りにくい分野である。大学図書館などで専門の記念文庫を作ってもらえれば嬉しいのだが、早稲田大学の演劇資料館あたりでどうだろうか。
『近代博多興行史』はまさにそういう観点で作られた本で、明治時代の博多における劇場興行の全貌が網羅されている。本文もさることながら、150ページにわたる興行年表が付されているのがありがたいのである。これは絶対要る本だ。
値付けを見たら結構な額だったが、もともとの定価が高いのである。これは暴利ではないだろう。喜んでこの二冊を帳場に持っていき、勘定をしてもらった。
外に出ればもはや夜である。とぼとぼと歩いてホテルへ向かった。