『名探偵と学ぶミステリ』のことをちょっと。
この本のガイド部分は『ハヤカワ・ミステリマガジン』連載に二章分を加えた内容になっている。ミステリーを初心者に薦めるときにいつも疑問を感じるのが、「本格」「ハードボイルド」といったサブジャンルで作品を分ける必要があるのか、ということだった。
「本格」にも「ハードボイルド」にも、かっちりとした文学的定義はない。歴史的文脈の上で成り立っているので、それを共有する者だけがなんとなくジャンルとして受け止められるのである。初心者は当然共有していない。ということは、サブジャンルを教えるだけ無駄ということだ。なので『名探偵と学ぶミステリ』では、「本格とは何か」というような定義を押し付けることは一切止めた。その代わりに「名探偵の担う役割とは何か」「トリックはなぜ用いられるのか」「推理とはどういう行為なのか。小説の中ではどういう役割を担っているのか」という要素で章立てをすることにした。ミステリーはこういう要素で成り立っているという知識があれば、それ以外のことは作品を読んでいけば理解できると思う。そこにレッテルを貼り付けるのは、各自が勝手にやればいいことなのである。ガイドの書き手が押し付けることではない。
こうしてみると、自分の基層にある考え方と本書は深く結びついていることがわかる。
それは「単語ではなく文章で考える」ということである。(つづく)