杉江松恋
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芸人本書く列伝classic vol.15 東野コージ(幸治)『この間。』
「マジギライ界のパイオニア。女子供に容赦しない。時に女にゃ手も上げる。日曜8時の『ごっつ』で嫌われ、以来、嫌われ芸歴二十五年。走って泳いで自転車乗って、汗流して嫌われる。ファンは全員中年男性。Mr.好感度ピンポイント芸人・東野幸治さんです」 これ、東野幸治が深夜番組『ゴッドタン』の「マジギライ」というコーナーに出演したときの紹介文だそうだ。「マ...
芸人本書く列伝classic vol.14 若林正恭『社会人大学人見知り学部卒業見込』
オードリーの若林正恭にはつきあっている彼女がいないのだそうだ。 『社会人大学人見知り学部卒業見込』は、彼が雑誌「ダ・ヴィンチ」に連載した原稿をまとめた単行本である。これは編集者から直接聞いたのだけど、連載中には長くなってしまって規定文字数を超えてしまった回もあり、それを単行本では旧に復しているなど、雑誌掲載分とは異同があるのだという。そういえば、回に...
芸人本書く列伝classic vol.13 春風亭一之輔『一之輔、高座に粗忽の釘を打つ』
落語の演目の中には、あまりもてなそうな男たちが集まってごしゃごしゃやっているだけ、という話がけっこうある。 「浮世床」「寄合酒」なんていうのがそういう例だ。前者は髪結床で順番を待っている男たちのスケッチである。後者はひさしぶりに集まったので、金はないけど一杯やろう、と算段をする話。どちらもストーリーらしいストーリーというものはな...
芸人本書く列伝classic vol.12 園子温『非道に生きる』
4月30日に映画監督の園子温氏が水道橋博士と組んで芸人デビューを果たすという(注:2013年当時)。これを聞いて最初に思ったことをまず書かせていただく。 立川流かよ! Bコースかよ! 立川流Bコースについてこのメルマガを読んでいる方に説明する必要はないかもしれないが一応。七代目立川談志(故人)が1983年に落...
芸人本書く列伝classic vol.11 みうらじゅん『キャラ立ち民俗学』
当初は水道橋博士編集長が本を選んで私が読んで書評、それに応える形で博士が課題書を読む、という往復書簡のような企図だったこの連載。しかし、多忙な博士に毎回その本を読む時間を取ってもらうというところに無理があった(当時は月2回刊だった)。また、博士の挙げる本の中に、自分だったらわざわざ書評しないものが含まれていたことも事実である。そういう縛りを受けて連載をやると...
芸人本書く列伝classsic vol.10 槙田雄司『一億総ツッコミ時代』
前々回のこの欄で扱った『間抜けの構造』(新潮新書)著者のビートたけしが、現在の漫才が変わった原因を「ツッコミの進化」に求めていることを紹介したと思う。漫才のコンビにおいて会話のリズムを制御する役割を担っているのはツッコミだが、その技術が多様化し、速度が飛躍的に上昇したことによって漫才は変わったのだとビートたけしは指摘していた。芸談の核は、こうした技術...
芸人本書く列伝classic vol.9 千原ジュニア『すなわち、便所は宇宙である』『とはいえ、便所は宇宙である』
芸人本の中には一見さんお断りで内輪向けに書かれたファンブックがある。そうではなく普遍性を獲得した作品もある。前者は批評を必要としない本であり、ファンではない人が読んでつまらなかったと怒るのは筋違いだ。その代わり、広く誰にでも薦められるものではないので、後に残ることはない。ブックオフの105円均一棚に置かれるのが似合うのはそういう本である(申し訳ないが...
芸人本書く列伝classic vol.8 ビートたけし『間抜けの構造』
先代・桂文楽には「あばらかべっそん」「べけんや」といった不思議なフレーズがあった。 「あばらかべっそん」とは「あばらかべっそん」である。たとえば文楽の芸の本質とは何か、と聞けば「あばらかべっそんなものだ」と答えられたことだろう。では「あばらかべっそんとは」と食い下がれば「どうにも、べけんやなことで」とくる。 つまりは言葉で表すのが難しいも...
芸人本書く列伝classic vol.7 有吉弘行『お前なんかもう死んでいる』
ふと思い立って有吉弘行の著書を買って読んでみた。 なぜ有吉の本を読もうと思ったのかは忘れてしまった。何かの番組で見かけて関心を持ったとか、たぶんそういうことだったと思う。きっかけは大事ではない。 2010年に単行本で出た『お前なんかもう死んでいる』が昨年春に双葉文庫に入っていることがわかったので、さっそくそこから読んでみた。 びっく...
芸人本書く列伝classic vo.6 立川談四楼『談志が死んだ』
「とんでもねえこと書きやがって、てめえなんざクビだ失せろとっとと出てけこの大バカヤロー」 突然の罵声である。その日、立川談四楼の自宅の電話に、こんな一方的な留守録が入った。たまたま別の階にいて受話器を取れなかった談四楼は慌てて折り返しの電話を入れる。怒声の主が、師である立川談志だったからだ。 おそるおそる話しかけてみると、たちまち相手の声は怒りの...